HEALTH WORDS / 用語解説
MADSボックス遺伝子
MADS-box gene
MADSボックス遺伝子とは、真核生物の遺伝子発現を調節する転写因子をコードし、保存された塩基配列であるMADSボックスを持つ遺伝子群の総称である。1 植物においては花芽の形成や器官の分化を制御するABCモデルの中心的な役割を担うことで広く知られており、動物や菌類など多様な真核生物にも広く保存されている。1
MADSボックスという名称は、最初に発見された4つのタンパク質(酵母のMCM1、植物のシロイヌナズナにおけるAGAMOUS、動物のSRF、植物のシロイヌナズナにおけるDEFICIENS)の頭文字を組み合わせて名付けられた。1 これらの遺伝子によってコードされるタンパク質は、共通してDNA上の特定の配列に結合するための高度に保存されたドメイン構造を保持している。1
植物の花の進化と多様性の理解において、MADSボックス遺伝子の研究は極めて重要である。被子植物の花は、外側からガク片、花弁、雄しべ、雌しべという4種類の器官が同心円状に配置されて構成されているが、これらの器官のアイデンティティは主としてMADSボックス遺伝子群の組み合わせによって決定される。2 ABCモデルと呼ばれる遺伝学的な枠組みによれば、異なるクラスに属するMADSボックス遺伝子が特定の花弁原基や雄しべ原基などで重複してあるいは排他的に発現することで、それぞれの器官への分化が誘導される。2
また、MADSボックス遺伝子は植物の生活環において、栄養成長から生殖成長への転換、すなわち花成の時期決定にも深く関与している。シロイヌナズナにおけるFLC(FLOWERING LOCUS C)などのMADSボックス遺伝子は、冬の寒さを感知して開花を促す春化(バーナリゼーション)のメカニズムにおいてリプレッサー(抑制因子)として働き、温度シグナルを遺伝子発現の制御へと結びつける重要な分子スイッチとして機能する。2
動物や真菌類といった他の真核生物においても、MADSボックス遺伝子は多彩な生命現象に関わっている。哺乳類の血清反応因子(SRF)は、細胞増殖、分化、細胞骨格の維持などに関わる多様な標的遺伝子の転写制御を行っており、発生過程や筋肉組織の維持に不可欠である。1 さらに、酵母などの真菌においては、細胞周期の進行や接合の制御といった細胞レベルの基本的プロセスにおいて中心的な役割を担っている。1
このように、MADSボックス遺伝子は真核生物の進化の過程で早くから獲得され、形態形成や生理学的応答において極めて多様な機能へと適応しながら現在に至っている。分子生物学や発生生物学の分野では、これらの遺伝子の構造や機能、発現制御メカニズムを解明するための研究が継続的に行われている。2