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HEALTH WORDS / 用語解説

TRPC2

Transient Receptor Potential C2

TRPC2とは、哺乳動物をはじめとする脊椎動物において発現する一時的受容体電位チャネル(Transient Receptor Potential channel: TRPチャネル)ファミリーのカチオンチャネルの一つである。1

TRPチャネルスーパーファミリーは、イオンチャネルとしての性質を持ち、様々な物理的刺激や化学的刺激を感知するセンサー分子として機能している。1

その中でTRPCサブファミリーに属するTRPC2は、元来ラットやマウスなどのゲノム解析から発見された遺伝子およびタンパク質であり、特に嗅覚系やフェロモン受容に関与する組織である鋤鼻器(Vomeronasal organ: VNO)において特異的に発現していることが明らかにされた。2

マウスなどのげっ歯類を用いた分子生物学的および生理学的研究により、TRPC2は鋤鼻器における受容体電位の生成に不可欠なイオンチャネルであることが示されている。2

フェロモンやカイロモンなどの化学物質が鋤鼻器の受容体に結合すると、ホスホリパーゼC(PLC)シグナル伝達経路が活性化され、その下流でTRPC2チャネルが開口することによりカルシウムイオンなどの陽イオンが細胞内へ流入し、神経興奮を引き起こす仕組みが提唱されている。2

このTRPC2を遺伝子工学的に欠損させたノックアウトマウスを用いた行動解析では、性行動や領域防衛行動、さらには親行動や同性愛様行動といった、動物の社会的・生殖的行動に著しい異常が生じることが報告されている。2

例えば、TRPC2欠損マウスのオスでは、本来はメスに対して示すべき求愛行動がオスに対しても無差別に向けられるようになるなど、性別の識別に関する行動レパートリーに変化が見られることが観察されている。2

このようにTRPC2は、動物が自己と他者を識別し、種の保存に必要な適応的行動を選択するための神経基盤において、極めて重要な役割を担う分子として位置づけられてきた。2

しかしながら、TRPC2遺伝子の進化的な歴史や種による発現の差異については、多様な動物種の間で大きな違いが存在することが遺伝子解析によって判明している。2

多くのげっ歯類や霊長類以外の哺乳動物においては機能的なTRPC2遺伝子が維持されている一方で、ヒトを含むチンパンジーやオランウータンなどの類人猿、およびクジラ類などの水生哺乳動物においては、TRPC2遺伝子が変異によってタンパク質を産生しない偽遺伝子(Pseudogene)へと進化の過程で変化している。2

このTRPC2の偽遺伝子化は、ヒトをはじめとする霊長類が進化の過程で嗅覚やフェロモン依存的な行動制御から、視覚や高度な大脳皮質機能を中心とした社会行動システムへと適応を遂げた過程を反映している重要な事例の一つとして、分子進化生物学や人類学の領域でも広く議論されている。2

参考文献・出典

  1. J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/132/5/132_5_272/_article/-char/ja/ ↩1 ↩2
  2. PubMed Central: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3592323/ ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9