HEALTH WORDS / 用語解説
アンチセンス法
Antisense technology
アンチセンス法とは、標的とする遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)と相補的な配列を持つ核酸(アンチセンス核酸やアンチセンスオリゴヌクレオチド)を結合させることにより、その遺伝子発現を特異的に抑制または制御する技術のことである。1
生物の遺伝子情報であるDNAは転写というプロセスを経てメッセンジャーRNA(mRNA)へとコピーされ、さらに翻訳という過程を通じてタンパク質へと合成されることでその機能を発揮する。1
アンチセンス法では、この情報伝達の流れを阻害するため、標的となるmRNAの特定の塩基配列に対して正確に相補的な結合をする人工的な核酸分子を外部から導入する。2
設計されたアンチセンス核酸が標的mRNAに結合すると、二重鎖が形成され、RNA分解酵素H(RNase H)などの酵素を介したmRNAの分解が誘導されるか、あるいはリボソームの結合や翻訳のステップそのものが物理的に妨げられる。2
これにより、病気の原因となる特定のタンパク質が過剰に作られるのを上流の段階で効率的に遮断することが可能となり、医薬品の創出において強力なアプローチとして期待されてきた。2
しかし、初期の未修飾の核酸分子は、生体内に存在する核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)によって極めて短時間で分解されてしまうという重大な課題を抱えていた。2
また、標的以外の遺伝子配列に偶発的に結合してしまうオフターゲット効果や、生体防御機構による免疫副反応、さらには標的組織や細胞の内部へと効率よく送達するDDS(ドラッグデリバリーシステム)の確立が長年のハードルであった。2
こうした課題を克服するため、リン酸骨格や糖のヌクレオシド部分に化学的な修飾を施した様々な人工核酸の開発が精力的に進められてきた。2
例えば、ホスホロチオエート修飾や、RNAの2'位の水酸基を架橋して立体構造を固定したBNA(架橋化核酸)などの革新的な化学修飾技術が登場したことにより、生体内での安定性や標的mRNAに対する親和性、そして安全性が劇的に向上した。2
今日では、アンチセンス法を基盤としたアンチセンスオリゴヌクレオチド医薬品(ASO)が実際の臨床現場において難病や遺伝性疾患の治療薬として次々と承認されており、従来の低分子化合物や抗体医薬品ではアプローチが困難であった標的に対する有効な治療戦略として確立されている。2