ホームパッチクランプ法

HEALTH WORDS / 用語解説

パッチクランプ法

Patch clamp technique

パッチクランプ法とは、細胞膜の微小な領域(パッチ)に微小なガラス管電極を密着させ、細胞膜を通過するイオン電流を測定する電気生理学的実験手法である1。

この手法は1970年代から1980年代にかけて、エルヴィン・ネーアー(Erwin Neher)とバート・サクマン(Bert Sakmann)によって開発された。彼らはこの業績により、1991年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。パッチクランプ法の開発により、従来は困難であった細胞膜上の個々のイオンチャネルレベルでの電流測定が可能となり、神経科学や薬理学などの生命科学分野に革命的な進展をもたらした2。

パッチクランプ法では、先端の直径が1マイクロメートル程度の滑らかに処理されたガラス管電極を細胞の表面に優しく押し当て、陰圧(吸引)をかけることで、ガラス管電極の先端と細胞膜の間に高電気抵抗な密着状態(ギガオームシール、あるいはギガシールと呼ばれる)を形成する。この高い電気抵抗の形成が、細胞膜を流れる微弱な電流を高精度で測定することを可能にする基本原理となっている1。

この手法には、実験の目的に応じていくつかの基本的な記録モードが存在する。代表的なモードの一つである「セルアタッチド法(cell-attached patch)」は、細胞を壊すことなく、電極直下に閉じ込められた少数のイオンチャネルの動きを測定する方法である。この状態からさらに強い陰圧をかけたり、電気的な刺激を与えたりして細胞膜の一部を破裂させることで、「ホールセルクランプ法(whole-cell clamp)」へと移行することができる。ホールセルクランプ法では、電極の内部液が細胞質と連続するため、細胞全体の電気生理学的状態を測定することが可能となり、活動電位や細胞全体の膜電流の解析に広く用いられている1。

さらに、細胞膜の一部を細胞本体から完全に切り離す「パッチ excised patch」と呼ばれるモードも存在する。これには細胞質側が外側を向く「アウトサイド・アウト法(outside-out patch)」と、細胞膜の内側が外側を向く「インサイド・アウト法(inside-out patch)」が含まれる。これらの切り離し法を用いることで、細胞膜の裏側にある物質や細胞外液の成分を人工的に変化させ、イオンチャネルの機能に与える影響を詳細に調べる実験が可能になる1。

現代の医学・生物学研究において、パッチクランプ法は神経細胞間のシナプス伝達機構の解明や、心筋細胞における不整脈メカニズムの解析、さらには各種受容体やイオンチャネルを標的とした新規医薬品の薬効評価や安全性試験(スクリーニング)に不可欠な技術となっている3。近年では、自動化されたパッチクランプ装置も開発され、高スループットでの創薬研究への応用が進められている。

参考文献・出典

  1. 生理学研究所: https://www.nips.ac.jp/contents/release/old/images/2006/07/post_13.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
  2. ノーベル財団: https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1991/summary/ ↩
  3. 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/files/000153175.pdf ↩