HEALTH WORDS / 用語解説
電極
Electrode
電極とは、電気回路または媒体との間で電子やイオンなどの電荷の授受を行うための導体の総称である。1
医学や生物学の分野において電極は、生体組織や細胞から発生する微小な電気信号を検出・記録する計測用として、あるいは生体に電気刺激を与える治療用や実験用として広く利用されている。
生体計測において最も代表的な応用例は心電図や脳波、筋電図などの生体電位の測定である。 生体の細胞膜では、イオンの動態によって常に電位差が生じており、興奮性の組織ではこれが時間的・空間的に変動する。 電極は、この生体表面の電位変化を電気信号として導出するためのトランスデューサー(変換器)として機能する。 計測時には、電極と生体皮膚との間の電気抵抗(皮膚抵抗)を下げるために、導電性のゲルやペーストが併用されることが多い。 これにより、高感度かつ安定した電位の誘導が可能となる。
また、神経科学や電気生理学の基礎研究においては、より局所的な細胞外記録や細胞内記録を行うために、微小な先端を持つ微小電極(マイクロエレクトロニクス技術を応用したマイクロ電極など)が用いられる。 ガラス管や金属細線などを加工して作製されるこれらの電極を用いることで、単一の神経細胞(ニューロン)の活動電位や、シナプスを介したシナプス後電位を高精度に測定することが可能になる。
一方で、電極は計測だけでなく、生体機能を代行あるいは刺激するためにも不可欠である。 例えば、ペースメーカーや植込型除細動器(ICD)などの医療機器においては、心筋に直接電気刺激を伝達し、あるいは不整脈を検知するために特殊な電極リードが用いられている。 さらに、人工内耳や網膜色素変性症に対する人工網膜などの神経補綴(ニューロプロテーゼ)の分野でも、失われた感覚機能を回復させるための神経刺激電極アレイが重要な役割を担っている。
生体内に長期間留置される電極や、生体組織と直接接触する電極においては、生体適合性が極めて重要な性能要件となる。 生体は異物に対して免疫反応や炎症反応を示すため、電極材料には腐食しにくく、生体組織に対して毒性が低い金属(金、白金、チタンなど)や導電性高分子が選定される。 また、生体反応による被覆や線維化が起こると電極のインピーダンスが上昇し、信号の品質や刺激効率が低下するため、ナノテクノロジーを用いた表面処理やコーティング技術の開発など、長期安定性を高めるための研究が現在も活発に行われている。2
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200906059101297594 ↩
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/ ↩