HEALTH WORDS / 用語解説
ベンズニダゾール
Benznidazole
ベンズニダゾールとは、シャガス病の治療薬として用いられるニトロイミダゾール系の抗寄生虫薬である。1 本剤は、アメリカ大陸の熱帯地域を中心に風土病として存在するクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)の感染症に対する主要な治療選択肢の一つとして位置づけられており、寄生虫の代謝系やDNA合成を阻害することで殺虫作用を示すと考えられている。2
シャガス病は、サシガメ類(吸血性カメムシの一種)の媒介によって人体に感染するほか、輸血や母子感染などを介して拡大する疾患である。3 感染初期には発熱やリンパ節腫大、顔面浮腫などの急性期症状が現れるが、多くは自然に軽快して無症候性のまま数十年経過することがある。3 しかし、その慢性期において患者の一定割合が心筋炎や心肥大、心不全、あるいは巨大結腸症や巨大食道症といった重篤な消化管の病変を発症するため、早期の原因療法としての薬物治療が極めて重要となる。4
ベンズニダゾールは、急性期のシャガス病や先天性感染例、さらには再活性化した慢性期の感染症に対して高い有効性が認められており、臨床現場では標準的なプロトコルに従って経口投与される。5 治療期間や投与量は患者の年齢や体重、腎機能などを考慮して慎重に決定されるが、一般的には数週間にわたる長期の服用が必要とされる。1
一方で、ベンズニダゾールの使用にあたっては、その強い薬理作用に起因する様々な副作用や有害事象の発현に十分な注意を払う必要がある。5 代表的な副作用としては、末梢神経障害(手足のしびれや痛みなど)、皮膚炎や発疹などの過敏症、食欲不振や悪心といった消化器症状が挙げられる。1 また、骨髄抑制による白血球減少症や血小板減少症などの血液障害を引き起こすこともあるため、投与中は定期的な血液検査や神経学的検査を実施して、患者の安全性を綿密にモニタリングすることが求められる。5
このように、ベンズニダゾールは中南米における公衆衛生上の重大な課題であるシャガス病制圧の要となる医薬品であるが、その安全性プロファイルと有効性のバランスを十分に理解した上で、適切な臨床管理のもとに使用されるべき重要な薬剤である。4
参考文献・出典
- 医薬品医療機器総合機構 添付文書: https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultPDF/490022_6429001F1020_1_02 ↩1 ↩2 ↩3
- 厚生労働省:寄生虫症: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kiseichu/index.html ↩
- 国立感染症研究所:シャガス病とは: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansenshou/631-chagas-disease-intro.html ↩1 ↩2
- 国立国際医療研究センター 国際感染症センター:シャガス病: https://www.ncgm.go.jp/ncgm_hospital/irai/kansenshou/shoukai/chagas.html ↩1 ↩2
- 医薬品医療機器総合機構 審査報告書: https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190823001/640192000_30100AMX00142_B100_1.pdf ↩1 ↩2 ↩3