HEALTH WORDS / 用語解説
Trypanosoma cruzi
クルーズトリパノソーマ
Trypanosoma cruziとは、南アメリカから中アメリカにかけて風土病として存在する、人獣共通感染症のシャーガス病を引き起こす原虫の一種である。1
Trypanosoma cruziはサシガメ科の昆虫(サシガメ亜科の吸血性昆虫)をベクター(媒介者)として脊椎動物に伝播する鞭毛虫類である。2
本原虫の生活環は複雑であり、ベクターであるサシガメの腸内で発育・増殖したのち、吸血時の糞便中に排泄されるメタサイクリックトリポマスティゴート(感染型原虫)が、皮膚の傷口や粘膜を介して宿主の体内へ侵入することで感染が成立する。1
宿主の体内に入ったTrypanosoma cruziは、マクロファージなどの免疫細胞や筋細胞をはじめとする多様な細胞へ侵入し、細胞内寄生体としてアマスチゴート(無鞭毛型)の形態で二分裂による増殖を行う。2
その後、細胞内で再びトリポマスティゴート(鞭毛型)へと分化して細胞を破壊して血流中へ遊離し、さらなる組織への感染拡大を引き起こすとともに、吸血に来た別のサシガメに摂取されることで生活環が維持される。1
シャーガス病の急性期には、原虫が侵入した皮膚の局所における硬結や腫脹(シャローマ)、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫などがみられるほか、眼瞼の浮腫を特徴とするローマニャ兆候が現れることがある。2
急性期の症状が自然に軽快したのち、数年あるいは数十年を経た慢性期においては、心筋の障害による心肥大、心不全、不整脈、さらには消化管の神経叢破壊に起因する巨大結腸症や巨大食道症といった重篤な病態を引き起こす。1
診断においては、急性期には顕微鏡を用いた血液の直接鏡検や塗抹標本による原虫の検出が有効であり、慢性期には血清学的中和反応、間接赤血球凝集反応(HI法)、ELISA法などの抗体検査を用いて感染の有無を確認する。2
治療薬としては、ベンズニダゾールやニフルチモックスといった抗寄生虫薬が使用されるが、これらは特に慢性期において効果が限定的であることや、強い副作用を伴うことが課題とされている。1
感染経路としてはサシガメの媒介によるもののほか、輸血や臓器移植を介した医療関連感染、母子感染(先天性シャーガス病)、さらには原虫に汚染された飲食物の経口感染なども知られている。2