HEALTH WORDS / 用語解説
アメリカトリパノソーマ病
American trypanosomiasis
アメリカトリパノソーマ病とは、原虫の一種であるクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)の感染によって引き起こされる人獣共通感染症であり、別名シャーガス病とも呼ばれる寄生虫病である。1 主として中南米の風土病であるが、近年では人口移動に伴い非流行国へも感染者が拡がっている疾患である。2
病原体であるクルーズトリパノソーマは、サシガメ亜科に属する吸血性の昆虫(媒介昆虫)の消化管内で発育する。1 感染したサシガメが宿主(ヒトや哺乳類)の皮膚を刺して吸血する際、糞を排泄することが多い。2 その糞内に含まれる感染型の虫体が、掻破(かゆみによって引っかくこと)などによって刺咬部位の創傷面や粘膜から体表の体内へ侵入することで感染が成立する。1 さらに、媒介昆虫を介した経路以外にも、輸血や臓器移植、感染した妊婦から胎児への母子感染(先天感染)、さらには原虫に汚染された飲食物の経口感染によっても伝播することが知られている。2
本疾患は臨床的に急性期と慢性期に大別される。1 急性期は感染後数週間以内に発症し、虫体が血中や組織内で増殖する。2 多くの場合、症状は軽微であるか無症状であるが、刺入部位の皮膚炎や腫脹(ローマニャ兆候と呼ばれる眼瞼浮腫など)、発熱、リンパ節腫脹、肝腫大、脾腫などが認められることがある。1 乳幼児などでは急性心筋炎や髄膜脳炎を併発して重症化し、致命的となるケースも存在する。2
数週間から数ヶ月の急性期が経過すると、免疫反応によって血中の虫体は減少して臨床症状は一旦消失し、不顕性感染または無症状期(indeterminate phase)へと移行する。1 この状態が数年から数十年持続したのち、慢性期へと進展する患者が現れる。2 慢性期では、心筋や消化管(食道や大腸)の神経叢が原虫の持続感染によって破壊され、組織の線維化や変性が生じる。3 心臓病変としては慢性心筋炎、心室肥大、心不全、不整脈、血栓塞栓症が生じ、突然死の原因となる。1 また、消化管病変としては巨大食道症や巨大結腸症が引き起こされ、嚥下困難や重度の便秘などの症状が持続する。2
診断にあたっては、急性期には血液塗抹検査による虫体の直接検出やPCR法による遺伝子検査が有用である。2 一方、慢性期には血中の虫体数が非常に少なくなるため、抗体検査(ELISA法や間接蛍光抗体法など)を用いて特異抗体を検出する血清学的診断が主に行われる。1
治療には、原虫に対する抗寄生虫薬であるベンズニダゾールやニフルチモックスが用いられる。2 これらの薬剤は急性期や先天感染例に対して高い効果を示すが、慢性期に対する有効性は限定的であるとされている。1 そのため、慢性期の管理では各臓器症状(心不全や不整脈、消化管障害など)に対する対症療法が中心となる。2
予防対策としては、媒介昆虫であるサシガメの生息を抑えるための家屋の改善(壁の亀裂の修繕など
参考文献・出典
- 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.forth.go.jp/useful/tropical/id25.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
- 国立感染症研究所: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/440-chagas-disease-intro.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
- 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/440-chagas-disease-intro.html ↩