ホーム免疫毒素

HEALTH WORDS / 用語解説

免疫毒素

Immunotoxin

免疫毒素とは、抗体などのタンパク質の分子認識部位と、植物や細菌由来の強力な毒素の活性部位を結合させた人工的なキメラ蛋白質、あるいは遺伝子工学的手法により作製された融合蛋白質の総称である。1

免疫毒素の基本的な概念は、標的となる細胞の表面に発現している特定の抗原や受容体に対して高い親和性を持つ抗体やリガンドをキャリアとして利用し、これに極めて強い細胞傷害性を持つ毒素を結合させることで、標的細胞を特異的に死滅させるというものである。2

通常、免疫毒素の構造は、抗原を認識・結合する可変領域(FvやFabなど)を含む抗体断片と、タンパク質合成を阻害するなどの機序で細胞毒性を発揮する毒素のドメインから構成されている。3

歴史的に、免疫毒素の研究は1980年前後から本格化し、当初は全長の免疫グロブリンに天然の毒素を化学的に架橋したものが用いられていた。3

しかし、初期の分子は分子量が大きく組織移行性が低いことや、正常な細胞への非特異的結合(肝や脾臓などの細網内皮系への取り込み)による強い副作用が問題となった。2

こうした課題を克服するため、遺伝子組換え技術の進展に伴い、抗体の不要な領域を除去して分子量を小さくした単鎖抗体(scFv)や、免疫原性(抗原性)を低減させたリコンビナント免疫毒素の開発が進められてきた。1

免疫毒素に用いられる毒素としては、植物由来のリシン、サポリン、あるいは細菌由来のジフテリア毒素や緑膿菌外毒素(PE)などが代表的である。2

これらの毒素は、それ単体では細胞膜を透過して細胞質内に入ることは困難であるが、免疫毒素として標的細胞の表面抗原に結合すると、受容体介現エンドサイトーシスによって細胞内取り込みが引き起こされる。3

細胞内に取り込まれた免疫毒素は、エンドソームから小胞体などを経由して細胞質内へと移行し、そこでリボソームの蛋白質合成機構を不活化するか、あるいはDNAやRNAを直接障害することで、標的細胞をアポトーシスなどの細胞死へと導く。2

臨床応用においては、主に悪性腫瘍(がんや白血病などの血液悪性腫瘍)に対する分子標的治療薬としての研究開発が精力的に行われてきた。1

特定の表面抗原を過剰発現する腫瘍細胞を狙い撃ちできるため、通常の抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)と比較して、正常細胞に対する毒性を軽減しつつ強力な抗腫瘍効果を発揮することが期待されている。2

一方で、臨床上の主な課題として、患者の体内における中和抗体の産生(免疫原性による効果減弱)、毛細血管漏出症候群(VLS)などの特有の副作用、および腫瘍の異質性による治療抵抗性の獲得などが挙げられる。2

これらの限界を克服するため、アミノ酸配列の改変による免疫原性の低減化や、ペグ化などの薬物動態を改善する工夫、さらに毒素部分を人間の内在性酵素などに置き換えたヒト化改変など、様々なトランスレーショナルリサーチが続けられている。1

参考文献・出典

  1. J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907026521783935 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
  2. がん薬物療法学: https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/49/11/49_1078/_pdf ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
  3. 化学療法学会雑誌: https://www.jstage.jst.go.jp/article/chemotherapy1953/43/7/43_7_651/_pdf ↩1 ↩2 ↩3