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HEALTH WORDS / 用語解説

内側血液網膜関門

inner blood-retinal barrier

内側血液網膜関門とは、網膜の毛細血管内皮細胞同士が密着結合(タイトジャンクション)によって強固に結合し、血液中の物質が容易に網膜実質へ移行することを制限している生理学的構造のことである。1

眼球の後部にある網膜は、光を受容して視覚情報を脳へ伝える極めて重要な神経組織であり、その機能を正常に維持するためには一定の体内環境が厳密に保たれなければならない。2

網膜の血管系は、脈絡膜側にある外側血液網膜関門と、網膜内層を栄養する網膜血管側にある内側血液網膜関門の2つの主要な関門によって厳重に保護されている。1

内側血液網膜関門の本体は、網膜の毛細血管を構成する内皮細胞であり、これらの細胞の間隙は密着結合によって隙間なく塞がれている。3

この密着結合には、クローディンやオクルーディンといった膜タンパク質が関与しており、血中の低分子化合物やタンパク質、さらには有害な物質が網膜組織内へ無秩序に侵入するのを物理的に阻止している。3

また、内側血液網膜関門を形成する内皮細胞の外側を取り囲むように基底膜が存在し、さらにその周囲にはペリサイト(周細胞)やアストロサイト(星状膠細胞)、ミュラー細胞といった glial cells (グリア細胞)の足突起が密接に付着している。4

これらの細胞群は網膜血管の血管新生や透過性の調節、さらには神経栄養因子の産生などを通じて、内側血液網膜関門の構造的・機能的な維持に極めて重要な役割を果たしている。4

脳の血管に見られる血液脳関門と類似した性質を持っており、物質の選択的透過性やトランスポーターを介した能動的な物質輸送機構を備えている点が特徴である。3

糖尿病などの全身性疾患に罹患すると、高血糖状態や酸化ストレス、微小循環障害などを引き金として内側血液網膜関門の機能障害や破綻が生じる。1

関門が破綻して血管透過性が異常に亢進すると、血漿成分が網膜内へと漏出するため、黄斑浮腫を引き起こして視力低下や視覚障害の原因となる。1

糖尿病網膜症の病態進展においては、この内側血液網膜関門の破綻が初期および進行期の双方において中心的な役割を果たしていることが広く知られている。1

網膜静脈閉塞症や網膜血管炎といった他の眼科疾患においても、血流障害や炎症性サイトカインの産生に起因して内側血液網膜関門の障害が引き起こされる。4

現代の眼科医療においては、光干渉断層計(OCT)などの高度な画像診断機器を用いることで、内側血液網膜関門の破綻に起因する網膜内の浮腫や形態変化を高精度に検出することが可能となっている。4

治療の分野では、関門の破綻や血管新生を促す血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした抗VEGF薬の硝子体注射などが、内側血液網膜関門の機能不全に起因する疾患に対して広く臨床応用されている。1

参考文献・出典

  1. 厚生労働省 難治性疾患等政策研究事業 難治性網脈絡膜疾患調査研究班: https://www.nanbyou.or.jp/entry/5535 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
  2. MSDマニュアル プロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/眼の疾患/網膜疾患/網膜の概要 ↩
  3. 国立国会図書館サーチ(J-GLOBAL): https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902241676672322 ↩1 ↩2 ↩3
  4. 国立国会図書館サーチ(J-GLOBAL): https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201302213797619213 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4