HEALTH WORDS / 用語解説
咳受容体
Cough receptor
咳受容体は、咽頭、喉頭、気管、気管支などの呼吸器系粘膜の上皮内やその直下に高密度に分布しており、特に喉頭や気管分岐部においてその存在密度が高いことが知られている。1
これらの受容体は、外界から侵入する異物や有害物質、あるいは気道分泌物などの刺激を鋭敏に捉え、生体防衛反応としての咳を引き起こす起点となる。1
咳受容体は、その機能特性や関与する神経線維の種類によっていくつかのサブタイプに分類される。 代表的なものとして、有髄神経であるAδ線維の終末と、無髄神経であるC線維の終末が挙げられる。
Aδ線維を伴う咳受容体は、主として触覚や機械的刺激、あるいは低張液などの浸透圧の変化によって活性化されやすく、速い伝導速度をもって延髄の咳中枢へ情報を伝達する。2
一方で、C線維を伴う咳受容体は、化学的刺激や炎症性メディエーター、カプサイシン、ブラジキニン、プロスタグランジンなどの生体内物質に対して感受性を示す。2
C線維は痛覚や温痛覚の伝導に関与する細い神経線維であり、炎症時における持続的な咳や過敏性の亢進に深く関与していると考えられている。
近年では、咳受容体およびそれに関連するイオンチャネルの研究が進められており、特に一過性受容器電位チャネル(TRPチャネル)が咳受容体の活性化において重要な役割を果たしていることが明らかにされている。3
例えば、TRPV1チャネルはC線維上に存在し、熱や酸性度、カプサイシンなどによって刺激されて咳を誘発する。3 また、TRPA1チャネルは化学物質や環境汚染物質、冷気などを感知し、これも咳受容体としての機能を発揮する。
このように、咳受容体は単一の受容体タンパク質を指すのではなく、多彩な物理的刺激や化学物質を検知する多様な受容体分子群や神経終末の総称としての側面を持っている。
感冒や気管支喘息、アトピー性咳嗽、逆流性食道炎などの疾患においては、炎症や酸化ストレスによって気道粘膜が過敏状態になり、咳受容体の閾値が低下する。
閾値が低下した状態では、通常であれば咳を引き起こさないような微小な物理的刺激やわずかな温度変化、化学物質への曝露によっても咳受容体が過剰に興奮し、頑固な空咳や遷延性咳嗽の原因となる。
この受容体レベルでの過敏性の亢進メカニズムを標的として、新規の鎮咳薬の開発や治療戦略の研究が現在も精力的に行われている。
参考文献・出典
- MSDマニュアルプロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/1-呼吸器疾患/咳/咳 ↩1 ↩2
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjsmbe/51/Annual/51_118/_pdf ↩1 ↩2
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs/47/12/47_12_987/_pdf ↩1 ↩2