HEALTH WORDS / 用語解説
家畜化
Domestication
家畜化とは、動物が人間の管理下において世代交代を重ねることで、野生状態から遺伝的・行動的・形態的な変化を起こし、人間の生活に特異的に適応していく進化的プロセスである。1 この過程は単なる個体の馴化(じゅんか)にとどまらず、集団レベルでの遺伝子プールの変容を伴う点が本質的な特徴とされる。2
家畜化の歴史は人類の歴史において極めて重要であり、およそ1万年以上の新石器時代の初期にその端緒が見られる。2 狩猟採集経済から農業および牧畜を主とする経済への移行に伴い、さまざまな野生動物が人間によって囲い込まれ、選択的繁殖が施された。1 これにより、肉、乳、毛、皮などの資源供給や、労働力・移動手段としての活用が可能となり、人間社会の拡大と定住化を強く促進した。2
家畜化された生物(家畜)には、共通して見られる形態的および生理的特徴の傾向が存在し、これらは家畜化症候群(Domestication syndrome)として知られている。1 代表的な変化としては、脳容量の縮小、体毛の斑紋化(色素異常)、耳介の下垂、吻部(マズル)の短縮、歯の小型化などが挙げられる。1 また、神経冠細胞の発生過程における変化がこれらの形質を引き起こす原因の一つであるという仮説も提唱されており、発生生物学や遺伝学の重要な研究対象となっている。1
行動面の変化も家畜化の顕著な特徴であり、特に攻撃性の低下や、人間に対する警戒心の喪失、恐怖反応の閾値の上昇が観察される。2 これにより、群れでの飼育が容易になり、過密な環境下でもストレスを受けにくい形質が選択されてきた。2 また、繁殖周期が季節的な制限を受けにくくなり、年間を通じて妊娠・出産が可能になるなど、生理的な生殖システムにも改変が生じている。1
現代においては、分子生物学やゲノム科学の進展により、次世代シークエンサーなどを用いた解析から、家畜化の遺伝的基盤が詳細に解明されつつある。1 祖先種と現在の家畜との間でゲノム比較を行うことで、どの遺伝子領域が人間による人工選択の圧力を受けたのかを特定することが可能となっている。1 このように、家畜化は動物行動学、進化生物学、考古学、農学など多岐にわたる学問分野が交差する総合的な研究領域であり、人類学的にも生物多様性の観点からも極めて価値の高い現象である。2