HEALTH WORDS / 用語解説
局所麻酔薬中毒
Local anesthetic systemic toxicity
局所麻酔薬中毒とは、局所麻酔薬が血管内への誤投与や過剰投与などにより血中に高濃度で移行し、中枢神経系や心血管系に重篤な毒性症状を引き起こす疾患および合併症である。1 局所麻酔薬は神経の細胞膜にある電位依存性ナトリウムチャネルを可逆的に遮断することで鎮痛作用をもたらすが、血中濃度が過度に上昇すると、全身の興奮性および抑制性の神経機能や心筋収縮力に悪影響を及ぼす。2
局所麻酔薬中毒の臨床症状は、初期には中枢神経系の症状として現れることが多く、軽度から中等度では、口周囲の知覚異常、金属味、耳鳴り、眩暈、不安感、興奮、振戦などが認められる。3 さらに血中濃度が上昇するか、あるいは急激な中毒の進展があった場合には、意識障害、全身性の痙攣発作、昏睡といった重篤な中枢神経症状に移行する。4
中枢神経系症状に先行して、あるいは痙攣発作とほぼ同時期に、生命を脅かす心血管系の毒性が現れるのが本病態の大きな特徴である。1 心血管系に対する影響としては、心筋の収縮力低下、伝導障害、不整脈、さらには難治性の心室細動や心静止といった心停止が含まれる。3 特に、脂溶性の高いブピバカインなどの薬剤では、心筋細胞内のナトリウムチャネルやカルシウムチャネルへの結合が強固であり、ひとたび心血管系虚脱に陥ると通常の蘇生術に対して抵抗性を示すことが知られている。2
局所麻酔薬中毒が発生した際の治療および対応としては、まず何よりも薬剤の追加投与を直ちに中止し、十分な酸素投与と気道確保を行うことが最優先される。1 痙攣発作が発現した場合には、ベンゾジアゼピン系薬剤などの抗けいれん薬を用いて速やかに発作を抑える必要がある。3 また、心血管系虚脱や心停止を伴う重篤な症例に対しては、標準的な心肺蘇生法に加えて、脂溶性薬剤を血中から回収して解毒的な効果を発揮する20%脂肪乳剤の静脈内投与(リピート療法)が極めて有効な治療戦略として広く推奨されている。1
参考文献・出典
- 日本麻酔科学会 安全ガイドライン: https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline20th_07.pdf ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 厚生労働省 医薬品医療機器総合機構 医薬品インタビューフォーム: https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1211400A1135_2_04/ ↩1 ↩2
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/23-外傷および中毒/中毒/局所麻酔薬中毒 ↩1 ↩2 ↩3
- 日本救急医学会 救急医学用語解説: https://www.jaam.jp/other/glossary/index.html ↩