HEALTH WORDS / 用語解説
生体材料
Biomaterials
生体材料とは、医療目的のために用いられる生体組織や生体機能の一部を代替、修復、あるいは再生させることを目的として設計された材料の総称である。1
生体材料は、大きく金属材料、セラミックス、高分子材料(ポリマー)、そして複合材料に分類される。2
これらは、治療対象となる部位や要求される機械的特性、生体適合性に応じて適切に選択され、人工関節や人工心臓弁、歯科インプラントなどの医療機器として臨床応用されている。1
生体材料において最も重要な特性の一つが生体適合性(Biocompatibility)である。2
生体適合性とは、材料が生体内に入った際に、宿主に対して有害な免疫反応や炎症反応、血栓形成などを引き起こさず、適切に共存できる性質を指す。
従来、生体材料は「生体に対して不活性であること」が重視され、異物として認識されにくい金やチタン合金、不活性なセラミックスなどが主に使用されてきた。
しかし近年では、単に生体内で害を及ぼさないだけでなく、生体組織と積極的に相互作用し、細胞の接着や増殖を促すことで組織再生を誘導する「生物活性材料」の開発が進められている。2
金属材料としては、高い強度と耐食性を持つチタンおよびチタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金などが広く用いられている。1
これらは高い機械的特性が要求される人工股関節や人工膝関節などの骨代替材料として不可欠である。
しかし、金属材料は骨に比べて弾性率が著しく高いため、応力遮蔽と呼ばれる現象によって周囲の骨が萎縮するという課題も存在する。
そのため、骨に近い弾性率を持つ新しい合金や、多孔質構造を付与して骨との固着性を高める工夫がなされている。
セラミックスには、アルミナやジルコニアに代表されるバイオインナートセラミックスと、ハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウムに代表される生体活性セラミックスがある。1
生体活性セラミックスは、骨の主要な無機成分と類似した化学組成を持ち、生体内で骨組織と直接結合する能力(骨導能)を有しているため、骨充填剤や人工歯根のコーティングなどに利用されている。
高分子材料は、その柔軟性や加工性の高さから、カテーテル、人工血管、縫合糸、さらには再生医療におけるスキャフォールド(足場材料)として多用されている。1
高分子材料には、生体内で長期間安定して機能する難分解性のものと、役割を終えた後に加水分解や酵素分解によって生体に安全な物質へと代謝・吸収される「生分解性高分子」がある。
ポリ乳酸(PLA)やポリグリコール酸(PGA)などの生分解性高分子は、吸収性縫合糸や組織工学用の足場として臨床現場で広く応用されている。
近年では、再生医療および組織工学の急速な発展に伴い、細胞や成長因子と生体材料を組み合わせたハイブリッド材料の研究が盛んに行われている。
これにより、失われた臓器や組織の構造的欠損を修復するだけでなく、生体が本来持つ治癒能力を引き出して組織再生を完遂させることが可能になりつつある。
このように、生体材料の科学は、材料科学、医学、生物学、化学などの多様な分野が融合する学際的な領域であり、高齢化社会におけるQOL(生活の質)の向上や新しい医療技術の確立に向けて、その重要性はますます高まっている。
参考文献・出典
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査専門員等の専門的知見の活用に関する資料: https://www.pmda.go.jp/files/000153835.pdf ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 NIMS連載コラム: https://www.nims.go.jp/public/file/press/press201707240.pdf ↩1 ↩2 ↩3