HEALTH WORDS / 用語解説
EPEC
EPECとは、下痢などの消化器症状を引き起こす大腸菌の一種である腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic Escherichia coli)の略称である。1 EPECは、小児、特に乳幼児の間で下痢症の原因となる重要な病原体の一つとして知られている。2
EPECによる感染症は、乳幼児の急性胃腸炎の原因菌として歴史的に重要視されてきた細菌である。1 発展途上国においては、乳幼児の下痢性疾患および脱水症状を引き起こす主要な原因菌の一つであり、乳幼児の死亡率に影響を与える感染症として警戒されている。2 先進国においても、集団保育施設や病院などの医療機関内において、集団感染や院内感染を引き起こす事例が報告されている。1
EPECの病原性発現メカニズムは、宿主である腸管の上皮細胞に対する特異的な付着と、それに続く細胞機能の障害を特徴としている。1 菌は小腸の粘膜に結合したのち、宿主細胞の細胞骨格を崩壊させ、微絨毛の消失を伴う特徴的な「attaching and effacing(A/E)病変」と呼ばれる病理組織学的変化を腸管上皮に引き起こす。1 この一連の病原性機構には、菌自身が持つプラスミドや、染色体上の病原性アイランド(Locus of Enterocyte Effacement: LEE)と呼ばれる遺伝子群が深く関与していることが分子生物学的研究によって明らかにされている。1 宿主の腸管でこれらの毒素や病原性因子が作用することにより、水分や電解質の吸収阻害および分泌亢進が生じ、水様便などの臨床症状が引き起こされる。2
EPECによる感染経路は主として経口感染であり、菌に汚染された水や食品の摂取、あるいは患者の糞便を介した接触感染によってヒトからヒトへと伝播する。2 臨床症状としては、突然の水様性下痢、嘔吐、発熱、腹痛などが現れるが、無症状のまま保菌している場合もある。2 診断にあたっては、患者の糞便を用いた細菌学的培養検査や血清型別試験、あるいは遺伝子検査法(PCR法など)による原因菌の同定が行われる。1
治療の基本は、下痢や嘔吐に伴う脱水を防止するための水分補給と電解質の補正を中心とした対症療法である。1 重症化した場合や合併症が懸念される状況では、感受性を確認した上での抗菌薬の投与が考慮されることがあるが、薬剤耐性菌の出現や症状の悪化を避けるため慎重な判断が求められる。2 予防の観点からは、調理場や飲食店、家庭内における手洗いの徹底、飲用水や食材の適切な衛生管理および加熱処理が極めて重要である。2