HEALTH WORDS / 用語解説
PDE10
Phosphodiesterase 10
PDE10は、特に脳内の線条体において高発現していることで知られており、基底核を介した情報伝達系や神経回路の調節において重要な役割を果たしている。1
分子生物学的な構造として、PDE10はN末端にGABA受容体などとの相互作用やタンパク質間相互作用に関与するとされるGAFドメインを複数保持しており、これによってシグナル伝達の厳密な制御を受けている。1
細胞内シグナル伝達において、PDE10はセカンドメッセンジャーであるcAMPやcGMPの細胞内濃度を低下させることで、プロテインキナーゼA(PKA)やプロテインキナーゼG(PKG)などの下流分子の活性化状態を負に調節している。2
中枢神経系、とりわけ大脳基底核の中等度有棘ニューロン(MSN)において、PDE10はドーパミン受容体やグルタミン酸受容体からのシグナル統合の中心的な調節因子として機能している。1
この特異的な発現分布と機能的特徴から、PDE10は統合失調症の陽性症状や陰性症状、さらには認知機能障害に対する新しい治療薬の標的分子として長年にわたり注目されてきた。2
基礎研究および臨床試験においては、PDE10を特異的に阻害する低分子化合物(PDE10阻害薬)が合成され、抗精神病薬としての有効性や安全性に関する検証が多角的に進められてきた歴史がある。1
また、統合失調症だけでなく、ハンチントン病をはじめとする神経変性疾患や運動障害、さらには薬物依存症などの病態メカニズムにおいても、PDE10を介したシグナル伝達異常の関与が示唆されている。2
このように、PDE10は脳神経科学および薬理学の分野において、細胞生理学的な代謝酵素としての側面と、精神・神経疾患の治療標的としての重要性を併せ持つ極めて価値の高い分子である。1
参考文献・出典
- UniProt: https://www.uniprot.org/uniprotkb/Q9Y232/entry ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- NCBI Gene: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/11234 ↩1 ↩2 ↩3