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HEALTH WORDS / 用語解説

シグナル伝達異常

Abnormal Signal Transduction

シグナル伝達異常とは、細胞外からの物理的あるいは化学的な刺激を細胞内へ伝達する一連の分子メカニズムに破綻が生じ、細胞の増殖、分化、代謝、アポトーシスなどの正常な生理応答が損なわれる現象のことである。1

多細胞生物において、細胞はホルモン、サイトカイン、成長因子などのリガンドを受容体で感知し、キナーゼやホスファターゼといった酵素を介したリン酸化などの化学修飾を通じて情報伝達を行っている。2

これらの情報伝達経路(シグナル伝達経路)を構成する遺伝子の変異、染色体異常、エピジェネティック異常、あるいはタンパク質の過剰発現や機能喪失が生じると、シグナル伝達異常が引き起こされる。3

例えば、チロシンキナーゼなどの受容体や下流のシグナル分子が持続的に活性化されると、細胞はリガンドの存在とは無関係に自律的な増殖シグナルを受け取り続け、腫瘍形成や癌化の主要な原因となる。4

また、シグナル伝達異常は悪性腫瘍だけでなく、免疫系の異常による自己免疫疾患やアレルギー疾患、内分泌系の代謝異常、さらには神経変性疾患など、多岐にわたる疾患の病態生理において中心的な役割を果たしている。5

受容体へのリガンド結合から核内受容体や転写因子を介した遺伝子発現に至るまでの各段階において、負のフィードバック機構などの制御機構が破綻することも、シグナル伝達異常を永続化させる要因となる。6

近年の分子生物学およびゲノム医療の発展により、特定のシグナル伝達異常を引き起こしている分子標的を特異的に阻害する分子標的薬の開発が進められており、個別化医療(プレシジョン・メディシン)の領域において重要な標的となっている。7

参考文献・出典

  1. MSDマニュアル プロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/11-がん/がんの概要/がンの生物学 ↩
  2. 中外製薬 基礎医学講座: https://www.chugai-pharm.co.jp/pt/bio/basics/bio02.html ↩
  3. 国立がん研究センター 希少がんセンター: https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/precision_medicine/index.html ↩
  4. 国立がん研究センター 研究所: https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/molecular_and_cellular_medicine/index.html ↩
  5. 難病情報センター: https://www.nanbyou.or.jp/entry/5464 ↩
  6. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/files/000155283.pdf ↩
  7. 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokkyoku/shindansaishin/index_00008.html ↩