HEALTH WORDS / 用語解説
αセクレターゼ
alpha-secretase
αセクレターゼとは、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβペプチドの産生を抑制する生体防御的なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の総称である。1 アルツハイマー病の脳内では、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる膜タンパク質が酵素によって切断されることでアミロイドβが生成され、これが神経細胞外に蓄積して老人斑を形成することが病態の初期段階において重要な役割を果たしている。2
通常、APPの代謝経路には競合する2つの異なるプロセッシングが存在しており、その一つがβセクレターゼとγセクレターゼが関与するアミロイド遺伝子由来のアミロイドβを産生するアミロイドーゲン経路である。2 これに対し、もう一つの主要な経路であるノンアミロイドーゲン経路において最初に働くのがαセクレターゼであり、APPの細胞外ドメイン内にあるアミロイドβ配列の内部を切断する反応を触媒する。2 このαセクレターゼによる切断が先行することによって、アミロイドβの全長配列が分断されるため、毒性の高いアミロイドβの産生自体が根本的に阻止される仕組みになっている。1
さらに、αセクレターゼによる切断の結果として可溶性APPα(sAPPα)と呼ばれる生理活性を持つ断片が細胞外へと分泌されることになり、このsAPPαには神経細胞の保護作用やシナプスの形成促進、記憶・学習機能の維持など、脳機能に対して有益な多面的な生物学的効果があることが明らかにされている。2 αセクレターゼとして機能する実体は単一の酵素ではなく、主にディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ(ADAM)ファミリーに属する複数の膜結合型のメタロプロテアーゼであることが判明している。2 特にADAM10やADAM17(TACEとしても知られる)、ADAM9などが主要なαセクレターゼとしての活性を担う代表的な分子として同定されており、これらは細胞膜上に発現して基質となるタンパク質の切断を行う。2
近年の分子生物学および医学の研究においては、アルツハイマー病の治療薬や予防法を開発する上で、このαセクレターゼの活性を薬理学的に増強あるいは賦活化させるアプローチが非常に有望視されている。2 脳内におけるノンアミロイドーゲン経路を優位に働かせることで、有害なアミロイドβの蓄積量を減少させると同時に、神経保護作用を持つ可溶性APPαの産生量を増加させるという二重の治療的メリットが期待できるためである。2 このように、αセクレターゼは中枢神経系の恒常性維持において極めて重要な役割を果たしており、認知症の病態生理の解明や新規治療戦略の構築において中心的な標的分子の一つとして位置づけられている。1