ホームシス,シス-ムコン酸

HEALTH WORDS / 用語解説

シス,シス-ムコン酸

シス,シス-ムコン酸とは、ベンゼンなどの芳香族炭化水素が生体内や環境中で代謝される過程で生成されるジカルボン酸の一種である。1

化学式はC6H6O4で表され、分子内に2つのカルボキシル基と2つの二重結合を持つ不飽和脂肪酸誘導体としての性質を示す。2

この物質は、産業用途においてはナイロンや樹脂などの合成原料として利用される化学物質であるアジピン酸を製造するための中間体や前駆体として重要な位置を占めている。3

医療および衛生学の分野において、シス,シス-ムコン酸は、産業上有機溶剤として広く用いられてきた揮発性の高いベンゼンの、ヒト体内における代謝物として特に注目されている。4

ヒトや実験動物がベンゼンに曝露された際、肝臓のシトクロムP450などの酵素群によってベンゼン環が酸化的な開裂を受け、最終的に尿中に排泄される代謝物の一つとしてシス,シス-ムコン酸が生成される。1

そのため、工場や作業現場などにおいてベンゼンを取り扱う労働者の健康管理や職業性曝露の状況を評価するための生物学的モニタリングにおいて、重要な尿中代謝物のバイオマーカーとして活用されている。4

尿中のシス,シス-ムコン酸濃度を測定することにより、空気中のベンゼン濃度を直接測定する環境モニタリングだけでは評価が難しい、皮膚からの吸収なども含めた体全体への総曝露量を間接的かつ高感度に見積もることが可能となる。5

ただし、ベンゼンの代謝経路には複数のルートが存在し、シス,シス-ムコン酸への変換率は曝露量や個人差によって変動するため、検査結果の解釈には十分な医学的および専門的な知識が求められる。1

さらに、食生活や喫煙習慣、あるいは他の化学物質の摂取などが、尿中のシス,シス-ムコン酸の基礎的な排出量に影響を与える可能性があることも知られており、臨床的な診断や労働衛生上の評価においては交絡要因の排除が重要視されている。4

近年のバイオテクノロジーやグリーンケミストリーの分野では、遺伝子組み換え技術を用いた微生物や酵素を利用し、バイオマスなどの再生可能な資源からシス,シス-ムコン酸を効率的に生合成する研究が盛んに行われている。3

石油資源に依存しない持続可能な手法で生産されたシス,シス-ムコン酸を出発原料とすることで、環境負荷の低い高分子化合物や各種化学品を製造する環境技術の確立に向けた学術的・産業的な開発が進められている。3

参考文献・出典

  1. 厚生労働省職場のあんぜんサイト: https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/kensaku/anzenjyo/116281-49-2.html ↩1 ↩2 ↩3
  2. NITE化学物質総合情報提供システム: https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/sanjyoDetail?ano=1073 ↩
  3. J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnlp/21/2/21_2_167/_pdf ↩1 ↩2 ↩3
  4. 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所: https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/srd/srd_47.pdf ↩1 ↩2 ↩3
  5. J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/44/5/44_5_195/_pdf ↩