HEALTH WORDS / 用語解説
次世代シーケンシング
Next Generation Sequencing
次世代シーケンシングとは、従来法であるサンガー法と比較して、圧倒的に多数のDNA分子の塩基配列を同時に、かつ超高速で決定することができる一連のDNAシークエンサー技術の総称である。1
従来のサンガー法では、1回あたりに解読できるDNAの断片長やスループットに限界があり、ヒトゲノム計画のように膨大な時間とコストを要した。これに対し、次世代シーケンシングではDNAを微小な断片に破砕して大量のライブラリを作成し、並列的に塩基配列を読み取るパラレル法(超大規模並列シークエンサー)を用いることで、短期間かつ低コストでのゲノム全域の解析を可能にした。2
次世代シーケンシングの技術的アプローチにはいくつかのプラットフォームが含まれており、それぞれに異なる原理や特徴を持っている。代表的なものとして、合成による配列決定法(Sequencing by Synthesis)を用いたイルミナ社のプラットフォームが広く普及しているほか、パイロシークエンス法やイオントレント法などがある。これらの技術はそれぞれスループット、リード長、エラー率に特徴があり、目的に応じて使い分けられる。3
次世代シーケンシングの最大の特徴は、超大規模並列処理能力にある。これにより、一度のランで数ギガベースからテラベース規模の塩基配列データを得ることができる。得られた膨大なショートリードなどの配列データは、バイオインフォマティクス的手法を用いてリファレンスゲノムへのマッピングやアセンブリが行われ、変異解析や遺伝子発現解析に活用される。4
基礎医学および臨床医学の分野において、次世代シーケンシングはゲノム医療の基盤技術として極めて重要な位置を占めている。がんゲノム医療においては、がん組織の網羅的ゲノムプロファイリング検査を実施し、個々の患者の遺伝子変異に応じた分子標的薬の選定や治療方針の決定に用いられている。5
また、遺伝性疾患の診断においても次世代シーケンシングは強力なツールである。全ゲノム解析、全エキソーム解析、あるいは特定の責任遺伝子群を対象としたターゲットリシーケンシングを行うことにより、単一遺伝子疾患や希少疾患の原因遺伝子変異を効率的に同定することが可能となった。これにより、従来は診断が困難であった症例の確定診断や、保因者診断への応用が進められている。6
感染症の領域においても、次世代シーケンシングは強力に活用されている。病原体の全ゲノム解析やメタゲノム解析を行うことで、ウイルスや細菌の変異株のモニタリング、薬剤耐性菌の解析、さらには新興感染症の迅速な原因特定や感染経路の追跡が可能となり、公衆衛生上の危機管理や疫学調査に貢献している。7
さらに、トランスクリプトーム解析(RNA-seq)やChIP-seq、エピゲノム解析などの多様なオミックス解析へも次世代シーケンシングの応用範囲は広がっている。これにより、遺伝子発現の網羅的な定量、クロマチン免疫沈降によるタンパク質とDNAの相互作用解析、DNAメチル化状態の評価など、遺伝子発現調節メカニズムの解明や細胞生物学的な研究が飛躍的に進展している。8
参考文献・出典
- ゲノム医学: https://www.amed.go.jp/kouhou/kenkyu_kaihatsu/genome.html ↩
- 次世代シーケンシング技術: https://www.amed.go.jp/content/000057077.pdf ↩
- 次世代シークエンサーの原理と応用: https://www.niph.go.jp/soshiki/gijutsu/jisshi/H23/H23_08.pdf ↩
- 次世代シーケンサーを用いた解析手法: https://www.amed.go.jp/content/000057077.pdf ↩
- がんゲノム医療と次世代シークエンサー: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokousei/iryo/gan/index.html ↩
- 遺伝学的検査に関するガイドライン: https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/shiryo_20200327.pdf ↩
- 感染症ゲノムサーベイランス: https://www.niid.go.jp/niid/ja/lab-manual/10237-genome-surveillance.html ↩
- ゲノム医学研究の推進: https://www.amed.go.jp/kouhou/kenkyu_kaihatsu/genome.html ↩