HEALTH WORDS / 用語解説
癌化
Carcinogenesis
癌化とは、正常な細胞が遺伝子変異やエピジェネティックな異常の蓄積により、無秩序な増抗と浸潤・転移能を獲得するプロセスのことである。1 生物学的な細胞は通常、精緻な細胞周期の制御を受け、周囲の組織環境と協調して生存している。2 しかし、様々な内因性あるいは外因性の要因によってDNAの塩基配列に傷がつき、それが修復されずに蓄積することで、細胞の恒常性が破綻する。3
癌化の初期段階では、しばしば原癌遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活化が引き起こされる。4 原癌遺伝子は本来、細胞の正常な増殖や分化を促進する重要な役割を担っているが、遺伝子変異によって過剰に活性化されると、シグナル伝達の暴走を招く。5 対して、がん抑制遺伝子は細胞周期の停止やアポトーシス(プログラムされた細胞死)の誘導を通じて腫瘍の形成を阻止する働きを持つが、これらの遺伝子が両アレル性に欠損あるいは不活性化されると、細胞は死を回避して無限の増殖能を手に入れることとなる。6
近年の分子生物学および癌ゲノム医療の研究により、癌化は単一の遺伝子変異のみで生じるのではなく、多段階の遺伝子異常の蓄積によって進行することが明らかになっている。7 この過程において、DNA修復機構の破綻やゲノム不安定性が重要な役割を果たし、細胞はさらなる多様な変異を獲得しやすくなる。8 また、エピゲノム異常、すなわちDNAメチル化やヒストン修飾などの異常も、遺伝子の転写制御を狂わせることで癌化を促進する。9
さらに、細胞の癌化は、その内部要因だけでなく、周囲の微小環境との相互作用にも強く影響される。10 腫瘍微小環境には、線維芽細胞や免疫細胞、血管内皮細胞などが含まれており、これらが分泌する様々なサイトカインやケモカインが、癌化細胞の増殖や浸潤、転移を有利にする場を作り出す。11 このように、癌化は遺伝子、エピゲノム、そして組織レベルの複雑な異常が連鎖して引き起こされる、多面的な病理学的プロセスである。12
参考文献・出典
- 国立がん研究センター 癌ゲノム情報管理センター: https://www.ccgs.jp/about/about_cancorgenome/ ↩
- 文部科学省: https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijutsu/gijutsu2/036/gijitsushiryo/06090511/002.htm ↩
- 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_yobo.html ↩
- 国立がん研究センター 研究所: https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/cancer_genomics/index.html ↩
- 国立がん研究センター 希少がんセンター: https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/genetics/index.html ↩
- 理化学研究所: https://www.riken.jp/research/labs/ims/transcriptional-regulation/index.html ↩
- 日本癌学会: https://www.jca.gr.jp/forefront/post_26.html ↩
- 大阪大学 蛋白質研究所: https://www.protein.osaka-u.ac.jp/index.html ↩
- 京都大学 大学院医学研究科・医学部: https://www.med.kyoto-u.ac.jp/ ↩
- 東京大学医学部附属病院: https://www.h.u-tokyo.ac.jp/ ↩
- 国立がん研究センター 東病院: https://www.east.ncc.go.jp/ ↩
- 日本病理学会: https://pathology.or.jp/ ↩