HEALTH WORDS / 用語解説
発現パターン
Expression pattern
発現パターンとは、多細胞生物の個体内において、特定の遺伝子やタンパク質が、どの細胞、組織、器官で、どの時期に、どの程度の量で活動(発現)しているかを示す時間的・空間的な分布の様式のことである。1 生物学や医学の分野において、遺伝子発現の発現パターンを網羅的かつ詳細に解析することは、生命現象の分子機構を解明し、疾患の病態を理解するための極めて重要なアプローチとなっている。2
生物の体を構成する多様な細胞は、基本的にすべて同一のゲノムDNAを共有しているにもかかわらず、細胞種ごとに異なる形態や機能を示す。 これは、転写制御などのメカニズムによって遺伝子の発現パターンが細胞の種類や環境に応じて厳密に制御されているためである。 例えば、神経細胞で特異的に発現する遺伝子群や、肝臓の代謝機能を担うタンパク質群など、特定の組織に偏った発現パターンを示す遺伝子が存在する一方で、生体の維持に常時必要なハウスキーピング遺伝子のように、ほぼすべての細胞で恒常的な発現パターンを示す遺伝子も存在する。
また、発現パターンは空間的な分布だけでなく、時間的な変化も内包している。 受精卵から胚が形成され、個体へと成長する発生のプロセスにおいては、時期や部位に応じて遺伝子の発現パターンがダイナミックに入れ替わる。 この時間的・空間的な発現パターンの秩序がわずかに乱れるだけでも、形態形成異常や疾患を引き起こす原因となる。 さらに、外部環境からの刺激やストレス、薬物の投与などによっても、特定の遺伝子の発現パターンは変動する。
医学および分子生物学の研究では、マイクロアレイや次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現解析、あるいはRNAシーケンスやin situハイブリダイゼーション法、免疫組織化学などを用いて、組織や細胞における具体的な発現パターンが詳細に調べられる。 疾患時には、健常時とは異なる異常な発現パターン(発現変動)が観察されることが多く、これが癌などの病気の診断マーカーの探索や、新しい治療薬の標的分子を特定するための強力な手掛かりとなる。 近年では、単一細胞RNAシーケンス技術の発展により、個別の細胞レベルでの発現パターンを高解像度に解析することが可能になりつつあり、組織内の細胞多様性や細胞間コミュニケーションの理解が急速に進展している。
参考文献・出典
- ライフサイエンス統合データベースプロジェクト: https://biosciencedb.jp/about/ ↩
- NIBIOHN 医薬基盤・健康・栄養研究所: https://www.nibiohn.go.jp/information/2021/11/post-107.html ↩