HEALTH WORDS / 用語解説
自律複製
Autonomous replication
自律複製とは、生体の遺伝情報を担う核酸や細胞などが、他の分子や細胞の恒常的な介入や制御を直接受けずに、自らの系の中で複製を進める現象および仕組みのことである。1
分子生物学および細胞生物学の分野において、自律複製は生命現象の最も本質的な特徴の一つとして位置づけられており、生物が遺伝子を次世代へと正確に伝達し、個体を維持・存続させるための基盤となっている。2
典型的な例として、原核生物の染色体や真核生物の細胞核内におけるDNAの複製が挙げられる。DNAの複製においては、DNAポリメラーゼなどの多様な酵素群が協調して働き、鋳型となるDNA鎖の塩基配列に相補的なヌクレオチドを順次結合させることで、元の分子と同一の情報を持つ新しい分子が合成される。
また、真核生物の細胞周期において、核内のDNAはS期(合成期)と呼ばれる特定の時期に正確に1回だけ自律複製が行われるよう厳密に制御されている。この複製の開始点となるのが複製起点(リプリケーター)であり、複製起点認識複合体(ORC)などのタンパク質が結合することによって、複製機構のアセンブリが引き起こされる。
細胞レベルだけでなく、細胞質内に存在するオルガネラであるミトコンドリアや葉緑体も独自のゲノムDNAを有しており、核の遺伝情報と一定の協調を保ちつつも、それら自身で独立した自律複製を行う能力を備えている。これらは細胞内共生説の観点からも、かつての独立した微生物としての自律複製の名残をとどめているものとして解析されている。
さらに、分子遺伝学の実験ツールや遺伝子組換え技術の分野においても、自律複製という概念は極めて重要である。プラスミドや人工染色体(YACやBACなど)といったベクターには、宿主細胞の染色体DNAの複製機構から独立して、あるいはそれを巧みに利用して自律複製を行うための特定領域が組み込まれている。これにより、目的とする外来遺伝子を宿主内で安定に保持し、細胞分裂に伴って娘細胞へと遺伝させることが可能となっている。
ウイルスやファージなどの感染性因子においても、自律複製は増殖の必須過程である。これらは宿主細胞の代謝機構やリボソームなどのタンパク質合成装置をいわば「乗取る」形で行われることが多いが、自らのゲノムを複製するための特定の酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼや逆転写酵素など)をコードしている場合があり、広い意味での自己増殖システムの一部として研究が進められている。
参考文献・出典
- ライフサイエンス辞書プロジェクト: https://lsd-project.jp/cgi-bin/lsdsearch.cgi?key=%E8%87%AA%E5%BE%8B%E8%A4%87%E8%88%BD ↩
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200906069925232770 ↩