HEALTH WORDS / 用語解説
酸性化
Acidification
酸性化とは、物質や環境のpHが低下し、水素イオン濃度が高くなる現象、あるいはその過程を指す言葉である。1 広範な自然科学の分野において用いられ、主として大気汚染物質の沈着に起因する陸水や土壌の酸性化と、大気中の二酸化炭素濃度の増加に起因する海洋酸性化の二つの文脈で深く研究されている。
地球規模の環境問題の一つである海洋酸性化は、人類の活動によって排出された二酸化炭素が海水に吸収されることで引き起こされる。2 大気中の二酸化炭素が海水面を通じて水に溶け込むと、化学的な平衡反応により炭酸が生成される。2 生成された炭酸は容易に水素イオンと炭酸水素イオンに電離するため、結果として海水中の水素イオン濃度が上昇し、pHが低下する。2 産業革命以降、人間の諸活動に伴う温室効果ガスの排出増加を背景として、表層海水のpHは持続的に低下傾向を示している。2
海洋の酸性化は、海洋生態系を構成する多様な生物に対して深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。2 特に、炭酸カルシウムを用いて骨格や殻を形成するサンゴ類、有孔虫類、貝類、翼足類などの生物にとっては、炭酸イオンの飽和度が低下することにより炭酸カルシウムの結晶を維持・形成することが困難になる。2 これにより、造礁サンゴの成長阻害や殻の溶解リスクが高まり、生物多様性の喪失や食物網を介した水産業への打撃が危惧されている。2
一方、陸域における酸性化は、主として硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質が酸性雨、酸性霧、あるいは乾性沈着として森林や湖沼に降下することによって生じる。3 陸水や土壌が酸性化すると、アルミニウムイオンなどの重金属が溶出しやすくなり、これらが植物の根に対して毒性を発揮することで森林衰退を引き起こす場合がある。3 また、湖沼の酸性化は魚類をはじめとする水生生物の生存を脅かし、生態系の単純化や生物の死滅を招く要因となる。3
医学や生物学の微視的な視点においても、組織や細胞レベルでの酸性化現象は重要な意味を持つ。4 例えば、生体内の代謝異常や虚血状態においては乳酸などの酸性物質が蓄積し、細胞内あるいは組織間液のpHが低下するアシドーシスと呼ばれる状態が生じる。4 このような微小環境の酸性化は、酵素活性の変動やタンパク質の機能変化を引き起こし、生体機能の維持に重大な影響を与えるため、厳密な生体調節機序によって制御されている。4
参考文献・出典
- 環境省 水環境の保全: https://www.env.go.jp/water/jyouka/h22-3/chpt2_1.pdf ↩
- 気象庁 海洋酸性化: https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/ncar/knowledge/acidification.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
- 環境省 酸性雨対策: https://www.env.go.jp/air/acidrain/basic.html ↩1 ↩2 ↩3
- 国立環境研究所 物質循環研究: https://www.nies.go.jp/kanko/i_mag/i030/index.html ↩1 ↩2 ↩3