HEALTH WORDS / 用語解説
SSPEウイルス
SSPE virus
SSPEウイルスとは、麻疹ウイルスの変異株が中枢神経系に持続感染することによって引き起こされる、亜急性硬化性全脳炎(Subacute Sclerosing Panencephalitis: SSPE)の原因となるウイルスの総称である。1
麻疹(はしか)に感染した数年後、特に小児期において極めて稀に発症する神経疾患であり、進行性の脳炎を引き起こすのが特徴である。2
SSPEウイルスは通常の麻疹ウイルスと比較して、Mタンパク質(マトリックスタンパク質)などの構造タンパク質の発現に異常が生じていることが多い。1
この遺伝子変異やタンパク質の異常により、ウイルスが細胞外へ円滑に粒子として放出されにくくなり、神経細胞間をシナプス伝達などを介して直接感染拡大させながら脳内に留まり続ける性質を獲得している。1
宿主の免疫系や抗体による中和を逃れつつ、中枢神経系のグリア細胞や神経細胞に長期にわたって持続感染を維持し続ける点が、本ウイルスの病態形成上の大きな特徴である。2
臨床的には、麻疹の既往歴がある小児や思春期の患者において、初期には学力低下や性格変化、行動異常などの精神症状が緩徐に出現する。1
その後、ミオクローヌスと呼ばれる不随意の筋肉のけいれん発作が頻発するようになり、錐体路症状や錐体外路症状が加わって運動機能が著しく障害される。2
病状がさらに進行すると、意識障害が深まり、最終的には植物状態や全脳炎の末期像に至る非常に予後不良な難病として知られている。1
脳波検査では特徴的な周期性高振幅電位(Radermecker波)が観察され、髄液中や血清中の麻疹抗体価が異常に高値を示すことが診断の重要な手がかりとなる。1
現在のところ、SSPEウイルスの中枢神経系における持続感染を完全に排除し、発症後に根治させることが可能な確立された特効薬は存在しない。2
抗ウイルス薬の投与や免疫調整療法などによる対症療法や進行遅延を目的とした治療が行われるが、多くは数年の経過で死因に至るか、重度の神経学的後遺症を残す。1
したがって、SSPEウイルスの感染およびそれに伴う亜急性硬化性全脳炎の発症を防ぐためには、ワクチン接種による麻疹自体の一次予防が最も有効かつ唯一確実な予防手段とされている。2