HEALTH WORDS / 用語解説
Xist RNA
X-inactive-specific transcript RNA
Xist RNAとは、哺乳類の雌におけるX染色体不活性化(XCI)の過程において中心的な役割を果たす長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)である。1
真核生物の多くの雌(XX)は雄(XY)と比較してX染色体上の遺伝子の用量が2倍になるため、そのままでは遺伝子発現量に過剰な偏りが生じる。これを生物学的に均衡させるため、発生初期の初期胚において、2本のX染色体のうちの1本がエピジェネティックに不活性化されてヘテロクロマチン化し、転写的にほぼ不活性な状態になるX染色体不活性化が起こる。Xist RNAはこの現象を引き起こすためのマスター制御因子として機能する。2
Xist RNAをコードする遺伝子(Xist)は、X染色体上のX-inactivation center (Xic)と呼ばれる領域に位置している。不活性化を受けるX染色体から転写されたXist RNAは、スプライシングを受けない約17キロベースの非コードRNAであり、核内において不活性化されるX染色体のクロマチン上にシス優性に局在する性質を持つ。この局在によって、Xist RNAは染色体全体をリボ核タンパク質(RNP)複合体として包み込むように広がっていく。3
Xist RNAがX染色体のクロマチン上に蓄積すると、様々なクロマチン修飾因子やタンパク質がリクルートされる。これにより、DNAメチル化、ヒストン修飾(H3K27me3やH2Aのユビキチン化など)の変化が誘導され、最終的に染色体はコンパクトな不活性X染色体(Barr体)へと変化する。分子生物学的な解析により、Xist RNAの特定のリピート領域(Repeat AからF)が、特定のRNA結合タンパク質(SHARP、SPEN、hnRNPなど)と結合することが明らかになっており、これらの相互作用が転写サイレンシングにおいて重要な分子メカニズムを担っている。4
マウスを用いた発生生物学の研究では、Xist遺伝子のノックアウト実験により、Xist RNAを欠損した雌の初期胚ではX染色体不活性化が正常に起こらず、致死性を示すことが確認されている。また、ヒトにおいても、Xist RNAの異常発現や変異は、がん細胞におけるX染色体の脱不活性化や、様々な遺伝性疾患との関連が指摘されている。エピジェネティクスの分野において、Xist RNAはノンコーディングRNAがどのようにゲノムの立体構造や遺伝子発現を制御するのかを解明するための最も代表的なモデルとして広く研究されている。5
参考文献・出典
- National Center for Biotechnology Information: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/7503 ↩
- Nature Reviews Genetics: https://www.nature.com/articles/nrg3363 ↩
- Annual Review of Genetics: https://www.annualreviews.org/doi/10.1146/annurev-genet-110711-155534 ↩
- Cell: https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)30312-3 ↩
- Science: https://www.science.org/doi/10.1126/science.1256191 ↩