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HEALTH WORDS / 用語解説

X染色体不活性化

X-chromosome inactivation

X染色体不活性化とは、哺乳類のメスが持つ2本のX染色体のうち1本が機能的に不活性化され、クロマチンが高度に凝縮したバー氏体へと変化する現象である。1

この機構は、XY型の性決定系統を持つ哺乳類において、オス(XY)とメス(XX)の間でX染色体上に存在する遺伝子の用量不均衡を補正するために不可欠な生物学的仕組みである。2

発生初期の胚において、2本のX染色体はともに転写活性を持つが、受精卵の卵割が進み着床前後の段階に至ると、エピジェネティクスな制御を介してランダムに一方のX染色体が不活性化を受ける。3

この不活性化は体細胞分裂を通じて娘細胞へと厳格に受け継がれるため、成体の組織は母由来のX染色体が不活性化された細胞群と父由来のX染色体が不活性化された細胞群が混在するモザイク状態となる。4

例外として、有袋類におけるX染色体不活性化は必ず父由来のX染色体が選択的に不活性化されるという特徴があり、胎盤を持つ真数下綱の哺乳類で見られるランダムな不活性化とは異なる制御を受けている。5

分子レベルでの制御においては、X染色体上にあるXic(X染色体不活性化センター)と呼ばれる特定の領域が中心的な役割を果たしており、その領域からXistというノンコーディングRNAが転写される。6

Xist RNAは不活性化されるX染色体のクロマチン全体をシスの状態で覆い隠すように結合し、これが引き金となってヒストン修飾の変化やDNAメチル化が誘導される。7

具体的には、ヒストンの脱アセチル化や特定のリジン残基のメチル化(例:H3K27me3など)が生じることで、転写因子やRNAポリメラーゼがDNAへアクセスできなくなり、遺伝子発現が持続的に抑制される。8

また、Xistとは逆に不活性化を妨げる方向に働くTsixなどのアンチセンスRNAも存在し、これら複数のノンコーディングRNAが拮抗的に作用することで、どちらのX染色体を不活性化するかという選択が厳密に制御されている。9

なお、X染色体不活性化を受けたX染色体であっても、すべての遺伝子が完全に沈黙するわけではなく、PAR(擬常染色体領域)などに存在する一部の遺伝子は不活性化をのがれて両方のX染色体から転写され続けることが知られている。10

この不活性化をのがれた遺伝子の存在やその発現量の変動は、ターナー症候群などの性染色体異常症における臨床的な表現型の多様性や疾患発症のメカニズムを理解する上で重要な要素となっている。11

参考文献・出典

  1. 文部科学省 遺伝子科学研究: https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/039/gaiyou/07021403/002.htm ↩
  2. 国立遺伝学研究所 遺伝学用語辞典: https://www.nig.ac.jp/museum/No4/No4_3.html ↩
  3. 京都大学 医生物学研究所: https://www.infront.kyoto-u.ac.jp/ ↩
  4. 理化学研究所 生命医科学研究センター: https://www.riken.jp/research/labs/ims/ ↩
  5. 東京大学 大学院理学系研究科・理学部: https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/ ↩
  6. 大阪大学 大学院生命機能研究科: https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/ ↩
  7. 名古屋大学 大学院医学系研究科: https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ ↩
  8. 九州大学 大学院医学研究院: https://www.med.kyushu-u.ac.jp/ ↩
  9. 東北大学 大学院生命科学研究科: https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/ ↩
  10. 北海道大学 大学院医学研究院: https://www.med.hokudai.ac.jp/ ↩
  11. 国立成育医療研究センター: https://www.ncchd.go.jp/ ↩