HEALTH WORDS / 用語解説
H3K27me3
H3K27me3
H3K27me3とは、ヒストンH3の第27番目のリシン残基がトリメチル化されたものであり、一般に遺伝子発現の抑制(サイレンシング)と深く関わるエピジェネティクスの重要なマークである。1
真核生物の細胞核内において、DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質の周りに巻き付くことでクロマチン構造を形成している。2 ヒストンのN末端テール領域に存在する特定のアミノ酸残基は、メチル化、アセチル化、リン酸化などの翻訳後修飾を受ける。1 中でもヒストンH3の第27番目に位置するリシン(K27)のトリメチル化であるH3K27me3は、転写不活性なヘテロクロマチン領域や遺伝子のプロモーター領域に多く見出される。1
H3K27me3の形成は、ポリコーム群タンパク質(PcG)複合体の一つであるPRC2(Polycomb Repressive Complex 2)に含まれるメチル基転移酵素活性中心サブユニットであるEZH2(またはEZH1)によって触媒される。3 PRC2によって付加されたH3K27me3マークは、別のポリコーム群タンパク質複合体であるPRC1によって認識され結合する。3 このPRC1とPRC2の協調的な作用により、クロマチンの高次構造が凝縮し、転写因子やRNAポリメラーゼがDNAへアクセスできなくなる結果、標的遺伝子の転写が長期間にわたって抑制される。3
このヒストン修飾は、発生や分化の過程において、特定の系統に不要な遺伝子群を不活性化し、細胞の運命を適切に決定するために必須の役割を担っている。3 例えば、多能性干渉や胚発生の初期段階において、未分化状態の維持や分化の方向性の制御に深く関与していることが知られている。3
一方で、H3K27me3の異常な蓄積や消失は、疾患の発症、特にがんの発生や進展に強く関与していることが明らかにされている。1 EZH2の遺伝子異常や過剰発現によってがん抑制遺伝子の周辺が過剰にH3K27me3で修飾され、その発現が抑制されることで細胞増殖が暴走し、腫瘍化を引き起こすケースが数多く報告されている。3 また、小児脳腫瘍であるびまん性内在性橋膠腫(DIPG)などにおいては、ヒストンH3の変異(K27M変異)が生じることで、PRC2の酵素活性が競合的に阻害され、ゲノム全体でH3K27me3の著しい減少が引き起こされることが発がんの主要な原因であることが見出されている。3
このように、H3K27me3は遺伝子発現のエピジェネティックな制御機構の中心的役割を担う指標であり、近年の分子生物学や腫瘍学の分野において極めて重要な研究対象となっている。1