HEALTH WORDS / 用語解説
アミロイドベータ
Amyloid beta
アミロイドベータとは、アルツハイマー病の脳内において神経細胞外に蓄積する老人斑(アミロイド斑)の主要な構成成分であるペプチドである1。アミロイドベータは、膜タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)が、酵素であるベータセクレターゼおよびガンマセクレターゼによって切断されることによって産生される2。
正常な生体内においても、アミロイドベータは神経細胞の代謝に伴って常に一定量が産生され、脳脊髄液や血液中に分泌されている。通常の状態では、産生されたアミロイドベータは分解酵素によって速やかに分解されるか、あるいは脳外へ排泄されるため、一定の濃度に保たれている1。
しかし、加齢や遺伝子変異、その他の要因により、アミロイドベータの産生量が増加するか、あるいはそのクリアランス(排泄・分解機構)が低下すると、脳内における恒常性が破綻する。アミロイドベータはアミノ酸の配列上、互いに凝集しやすい性質を持っており、単量体(モノマー)からオリゴマー、プロトフィブリルを経て、最終的に不溶性の線維状構造であるアミロイドを形成するに至る2。
この凝集過程において、中間の前駆体である可溶性オリゴマーや、線維状に沈着した老人斑が、シナプス機能の障害、神経炎症の誘導、酸化ストレスの亢進などを引き起こす。これが神経細胞に対する細胞毒性を発揮し、アルツハイマー病の病態形成における初期かつ中心的なイベントとして機能するというのが、アミロイドカスケード仮説である1。
アミロイドベータにはいくつかのアイソフォームが存在し、主として39〜43個のアミノ酸から構成される。中でも、42個のアミノ酸からなるアミロイドベータ42(Abeta42)や、43個からなるAbeta43は、疎水性が高く極めて凝集しやすいため、老人斑の主要な構成成分となりやすく、病態との強い関連が指摘されている2。
近年の医学および分子生物学の進歩により、脳内のアミロイドベータの蓄積を定量的に評価することが可能になってきた。ポジトロン断層法(PET)を用いたアミロイドイメージングや、脳脊髄液および血液(血漿)中のアミロイドベータバイオマーカー測定は、アルツハイマー病の早期診断や軽度認知障害(MCI)の段階での病態評価において重要な役割を果たしている2。
さらに、アミロイドベータの蓄積や産生を標的とした疾患修飾薬の開発が進められてきた。これには、アミロイドベータに対する抗体を用いて脳内の老人斑を除去することを目的とした抗体医薬品(モノクローナル抗体)などが含まれ、アルツハイマー病の進行を抑制する新しい治療薬として臨床応用されている1。
参考文献・出典
- 厚生労働省e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/brain/h-02-05.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 国立精神・神経医療研究センター: https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r3/ni_neurochem.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4