HEALTH WORDS / 用語解説
グリシン脱炭酸酵素複合体
Glycine decarboxylase complex
グリシン脱炭酸酵素複合体とは、アミノ酸の一種であるグリシンの分解代謝において中心的な役割を果たす酵素系である。1 この複合体はミトコンドリアのマトリックス内に存在しており、グリシン開裂系とも呼ばれる多酵素複合体である。1
グリシン脱炭酸酵素複合体は、タンパク質の構成成分であるグリシンをセリンへ変換する代謝経路や、葉酸代謝、一炭素単位の供給において極めて重要な働きを担っている。1 生体内におけるアミノ酸の恒常性維持やエネルギー代謝のネットワークにおいて欠かせない生体触媒の一つとして知られている。1
本複合体は、機能や構造が異なる複数のタンパク質コンポーネント(サブユニット)が協調して働くことによって全体としての酵素活性を発揮する。2 具体的には、Pタンパク質(グリシン脱炭酸酵素)、Hタンパク質(リポ酸含有タンパク質)、Tタンパク質(テトラヒドロ葉酸依存性メチラートトランスフェラーゼ)、Lタンパク質(ジヒドロリポアミド脱水素酵素)と呼ばれる4種類の個別要素から構成されている。2
このマルチ酵素システムによる触媒反応では、まずPサブユニットがグリシンから二酸化炭素とアミノ基を遊離させ、残りの炭素フラグメントをHサブユニット上のリポ酸補酵素に転移させる。2 次いでTサブユニットおよびLサブユニットが関与する一連の反応を経て、メチレンテトラヒドロ葉酸の生成やニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の還元が行われる。2
グリシン脱炭酸酵素複合体を構成する各遺伝子に変異が生じると、グリシンの分解代謝が正常に行われなくなる。1 その結果、体内にグリシンが異常蓄積する代謝疾患である非ケトン性高グリシン血症(NKH)を引き起こすことが知られている。1 非ケトン性高グリシン血症は、中枢神経系において神経伝達物質として作用するグリシンの過剰により、新生児期から重篤な神経症状や痙攣、精神発達遅滞などを来す遺伝性の先天性代謝異常症である。1