HEALTH WORDS / 用語解説
シャーガス病
Chagas disease
シャーガス病とは、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)という寄生虫によって引き起こされる人獣共通感染症であり、アメリカ大陸の熱帯地域を中心に風土病として分布している疾患である。1
本疾患はブラジルの医師であるカルロス・シャーガスによって1909年に初めて発見され、その病原体の生活環や臨床像が明らかにされた。2
シャーガス病の主な感染経路は、サシガメ亜科に属する吸血昆虫(サシガメ類、現地ではビノチャなどと呼ばれる)の糞を介した感染である。1
サシガメ類は夜間に寝ている人間の顔面などの皮膚を刺咬して吸血し、その際に糞を排泄する。2
宿主が刺咬部位や眼瞼などの粘膜を無意識に掻きむしることで、糞に含まれる感染性の原虫が傷口や粘膜から体内に侵入し、感染が成立する。1
その他の感染経路としては、輸血や臓器移植といった医療行為を介した経路、母子感染(垂直感染)、および原虫に汚染された飲食物の経口感染が挙げられる。2
シャーガス病の臨床経過は、急性期と慢性期の2つの段階に大別される。1
急性期は感染後数週間から数ヶ月間続き、多くの場合無症状であるか、あるいは発熱、倦怠感、リンパ節腫脹、肝腫大、脾腫などの非特異的な症状を示す。2
サシガメに刺咬された皮膚の部位に腫脹や発赤が生じる事があり、特に眼瞼から感染した場合には片側の眼の腫脹を特徴とする「ローマニャ徴候」と呼ばれる所見が認められることがある。1
小児における急性期には、心筋炎や髄膜脳炎といった重篤な合併症を併発して死亡に至るケースもある。2
急性期の症状は数週間から数ヶ月で自然に軽快し、その後は無症候性期(不顕性感染の状態)へと移行する。1
この無症候性期は長期間にわたって持続することがあり、多くの感染者は一生涯にわたって症状が現れないまま経過する。2
しかし、感染者の約20パーセントから30パーセントにおいては、感染後数十年を経過してから慢性期の特異的な症状が発現する。1
慢性期における主要な病態には、心筋の障害に起因する心不全、心室性不整脈、心拡大、心尖部動脈瘤、さらには伝導障害が含まれる。2
また、消化管の神経叢が原虫によって破壊されることで、巨大食道症や巨大結腸症といった消化管の機能異常や拡張を引き起こす。2
これらの慢性期合併症は、患者の生命予後を大きく左右する要因となる。2
シャーガス病の診断は、急性期においては血液の鏡検による原虫の直接検出などによって行われる。2
一方、慢性期においては血中の原虫数が極めて少なくなるため、酵素免疫測定法(ELISA法)や間接蛍光抗体法(IFA法)などの血清学的検査を用いて抗体を検出することが診断の基本となる。2
治療には、抗寄生虫薬であるベンズニダゾールやニフルチモックスが用いられる。1
これらの薬剤は急性期や先天性感染例に対して高い治療効果を示すが、慢性期の経過に入った患者に対する効果は限定的であるとされている。1
シャーガス病の予防においては、サシガメの生息環境を排除するための家屋の改善や殺虫剤の散布といった媒介昆虫対策が極めて重要である。1