HEALTH WORDS / 用語解説
ショウジョウバエ
Drosophila
ショウジョウバエとは、ハエ目(双翅目)ショウジョウバエ科に属する昆虫の一群であり、小型の双翅類である。1 特にキイロショウジョウバエ(*Drosophila melanogaster*)は、遺伝学および発生生物学における最も重要なモデル生物の一つとして世界中で広く用いられている。2
キイロショウジョウバエがモデル生物として優れている理由として、その生活史の短さが挙げられる。 適温下では卵から成虫になるまでの発生期間が約10日と非常に短く、短期間で多くの世代を重ねることができるため、遺伝学的な実験や変異体の解析に極めて適している。2 また、飼育が容易であり、少スペースかつ低コストで多数の個体を維持できるという利点もある。2
20世紀初頭、トーマス・ハント・モーガン(Thomas Hunt Morgan)らはキイロショウジョウバエを用いた実験により、遺伝子が染色体上に線状に配置されているという染色体説を実証した。2 この発見は近代遺伝学の礎築き、モーガンは1933年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。3 その後もショウジョウバエは、突然変異解析、減数分裂のメカニズム、性決定機構などの研究において中心的な役割を果たし続けた。2
発生生物学の分野においても、ショウジョウバエは多大な貢献をしてきた。 受精卵から成虫の体節や器官が形成されるまでの形態形成において働く様々な遺伝子群が同定された。2 特に、身体の前後軸や各体節のアイデンティティを決定するホメオティック遺伝子の発見は、動物の進化と発生の共通性を理解する上で決定的なブレイクスルーとなった。クリスティアン・ニュスライン=フォルハルトやエリック・ヴィーシャウスらは、初期発生の遺伝的制御に関する発見により1995年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。4
さらに、ショウジョウバエのゲノムは全塩基配列が解読されており、人間を含む他の真核生物の遺伝子と高い相同性を持っていることが明らかにされている。5 人間の疾患に関連する遺伝子の多くに対応するオーソログがショウジョウバエにも存在するため、神経変性疾患、がん、免疫学、概日リズム(体内時計)などの研究における疾患モデルとしても広く活用されている。2 近年の分子生物学においては、ゲノム編集技術なども導入され、遺伝子機能の解析や創薬研究のためのプラットフォームとして、その重要性はさらに高まっている。2
参考文献・出典
- 国立環境研究所 侵入生物DB: https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80400.html ↩
- 国立遺伝学研究所: https://www.nig.ac.jp/nig/ja/research/organization/genetic-strains-research-center-ja/attc-ja ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
- Nobel Prize: https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1933/morgan/facts/ ↩
- Nobel Prize: https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1995/illustration/ ↩
- アメリカ国立生物工学情報センター NCBI: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/datasets/genome/GCF_000001215.4/ ↩