HEALTH WORDS / 用語解説
ショックタンパク質
Heat shock protein
ショックタンパク質(HSP)とは、熱ショックなどの環境ストレスに曝された際に、生体の細胞内で発現が急速に誘導されるタンパク質の総称である。1
ショックタンパク質は1962年にイタリアの遺伝学者であるフェルッチョ・リッツォーダ(Ferruccio Ritossa)によってショウジョウバエの唾液腺染色体のパフ形成として初めて発見された。2 その後、熱ストレスだけでなく、虚血、酸化ストレス、重金属、炎症など、多様な物理的および化学的ストレスに応答して誘導されることが明らかにされた。
多くのショックタンパク質は分子シャペロンとしての機能を有しており、タンパク質合成の過程やストレス条件下において、新生ポリペプチド鎖の正確な折り畳み(フォールディング)を助ける。1 また、変性したタンパク質の凝集を防ぎ、正常な立体構造への再折り畳みを促進する役割を担っている。 さらに、修復が不可能なほど損傷を受けたタンパク質に対しては、プロテアソーム系などを介したタンパク質分解へ導くことで、細胞内の恒常性(ホメオスタシス)維持に寄与している。
分子量や機能に基づき、ショックタンパク質はいくつかのファミリーに分類されている。 代表的なものとして、HSP100、HSP90、HSP70、HSP60、HSP40、そして小型HSP(Small HSP)などが知られている。 これらのうち、HSP70やHSP90などは特によく研究されており、アポトーシスの抑制やシグナル伝達の制御など、細胞生存のための多彩な細胞内プロセスに関与していることが示されている。
臨床医学や基礎生物学の分野において、ショックタンパク質は疾患の病態生理や生体防御機構との関連で極めて重要視されている。 例えば、心筋虚血や脳虚血といった血流障害の前段階において、軽度のストレスを負荷することでHSPの発現を誘導し、その後の重度な虚血再灌流障害から細胞を保護するプレコンディショニングという現象が確認されている。2 加えて、悪性腫瘍(がん)の細胞においては、高頻度で特定のHSPが過剰発現しており、これががん細胞の生存、増殖、および抗がん剤に対する耐性獲得に関与していることから、HSP阻害剤を用いた分子標的薬の開発が進められている。
このように、ショックタンパク質は生物が環境変化を生き抜くために不可欠な生体防御システムの中心的役割を果たしており、細胞生物学、分子生物学、および医学の多岐にわたる領域で研究が続けられている。