HEALTH WORDS / 用語解説
リアクトーム
Reactome
リアクトームとは、分子生物学および生化学の分野においてヒトを中心とした生体分子ネットワークや代謝・シグナル伝達などの生化学反応経路を網羅的にデータベース化したオープンアクセスの知識ベースである。1
リアクトームは、アメリカ合衆国の1にあるコールド・スプリング・ハーバー研究所、イギリスのヒンクストンにある欧州バイオインフォマティクス研究所(EMBL-EBI)、およびニューヨーク大学ランゴン医学部などの国際的な研究機関の共同研究によって構築および維持されている。2
このデータベースの最大の目的は、ゲノム情報から得られたタンパク質や核酸などの分子が、細胞内でどのように相互作用し生体機能を発揮しているかを、検証可能な電子的生化学的経路(パスウェイ)として分かりやすく提供することである。3
リアクトーム内で管理されているデータは、専門のキュレーターが学術論文などの発表された実験データに基づいて詳細に手作業でアノテーションを行い、さらに外部の専門家による厳しいピアレビュー(査読)を受けることで高い信頼性を保っている。3
リアクトームにおける基本的な単位は「反応(Reaction)」であり、基質が酵素などの触媒作用や化学的変化を経て生成物へと変換されるプロセスが定義されている。1
これらの個々の反応が複雑に組み合わさることで、代謝パスウェイ、シグナル伝達経路、転写調節、DNA修復、細胞周期などの多様な生物学的プロセスが階層的なネットワークとして表現されている。3
リアクトームの最大の特徴の一つは、ヒト以外の主要なモデル生物(マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線虫、酵母など)におけるオーソログ(オルソログ)遺伝子およびタンパク質に基づいたパスウェイ予測データも統合されている点である。1
これにより、モデル生物を用いた実験結果をヒトの病態理解や生命現象の解釈へとスムーズに応用することが可能となっている。3
リアクトームのユーザーインターフェースには、パスウェイ全体を俯瞰するための高度な可視化ツールが備わっており、地理情報システムのマップのように階層構造を拡大・縮小しながら分子の相互作用を視覚的に探索することができる。3
また、研究者が自身の網羅的解析(オミクス解析など)によって得られた遺伝子発現データやプロテオミクスデータをリアクトーム上にオーバーレイ(重ね合わせ)表示させることで、特定の生体反応経路が実験条件下でどのように活性化または抑制されているかを統計的に解析する機能も提供されている。3
このような解析機能は、疾患の原因遺伝子の探索や創薬ターゲットの同定、バイオマーカーの発見といった臨床および基礎医学の幅広い領域で活用されている。3
リアクトームのすべてのデータおよびソフトウェアのソースコードはオープンソースおよびオープンデータとして一般に公開されており、APIなどを通じて外部の生物情報学ツールやバイオインフォマティクスパイプラインから容易にアクセスし利用できるようになっている。1
このように、リアクトームは現代の生命科学において不可欠なインフラストラクチャーとして、遺伝子から細胞機能、そして個体の疾患メカニズムをつなぐ重要な役割を果たし続けている。3