HEALTH WORDS / 用語解説
低酸素応答配列
Hypoxia-Response Element: HRE
低酸素応答配列とは、細胞が酸素濃度の低下(低酸素)に適応するために利用するDNA上の特異的な塩基配列のことである。1
この配列は転写因子である低酸素誘導因子(HIF)が結合するエンハンサーとして機能し、遺伝子発現の調節において中心的な役割を果たす。1
哺乳類の低酸素応答配列のコア配列は、一般に5'-RCGTG-3'(Rはプリン塩基)を含む保存された塩基配列から構成されている。2
生体や組織が虚血や低酸素状態に陥った際、細胞質内で安定化したHIFのαサブユニットが核内へと移行する。3
核内へ移行したHIFは、βサブユニットと複合体を形成した上で、ターゲットとなる遺伝子の近傍に存在する低酸素応答配列に特異的に結合する。3
このDNAとタンパク質の相互作用により、RNAポリメラーゼなどの転写装置がリクルートされ、エリスロポエチン(EPO)や血管内皮増殖因子(VEGF)、解糖系に関与する各種酵素などの遺伝子の転写が強力に誘導される。3
これらの遺伝子産物は、赤血球の産生促進による酸素運搬能力の向上や、血管新生による血流の改善、さらには酸素非依存的なATP産生経路の亢進などを引き起こす。3
したがって、低酸素応答配列を介した一連のシグナル伝達経路は、細胞、組織、および個体レベルでの酸素恒常性(ホメオスタシス)の維持に不可欠な生体防御機構の一部を担っている。3
一方で、がん細胞などの悪性腫瘍組織においては、しばしば中心壊死などの低酸素微小環境が生じるため、この低酸素応答配列を介した遺伝子発現が腫瘍の増殖、浸潤、転移、および放射線治療や化学療法に対する耐性獲得に寄与することが知られている。2
そのため、低酸素応答配列やHIFの活性化メカニズムを標的とした創薬研究や分子標的薬の開発が進められており、がん治療をはじめとする様々な疾患の治療戦略において重要な研究対象となっている。2
参考文献・出典
- ライフサイエンス辞書プロジェクト: https://lsd-project.jp/cgi-bin/lsd_search.cgi?key=%C4%CC%B2%BB ↩1 ↩2
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201007023777558661 ↩1 ↩2 ↩3
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907038842426914 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5