HEALTH WORDS / 用語解説
脱窒微生物
脱窒微生物とは、硝酸塩や亜硝酸塩などの酸化窒素化合物段階の窒素化合物を還元し、窒素ガス($N_2$)へと変換する代謝を行う細菌および古細菌の総称である。1
地球上の窒素循環において、脱窒微生物は生物地球化学的サイクルの最終段階を担う極めて重要な存在である。1
自然界における窒素は、大気中に約78%を占める豊富な気体であるが、そのままでは多くの生物が直接利用することはできない。2
そのため、窒素固定細菌などの働きによってアンモニアなどに変換され、さらに硝化細菌によって硝酸塩へと酸化されることで植物が吸収できる形態となる。2
しかし、この硝酸塩が過剰に蓄積すると環境汚染や水質汚濁を引き起こす原因となるため、脱窒微生物が硝酸塩を窒素ガスへと還元して大気中へ放出することで、生態系全体の窒素バランスが維持されている。1
脱窒のプロセスは、一般的に硝酸塩($NO_3^-$)から亜硝酸塩($NO_2^-$)、一酸化窒素($NO$)、亜酸化窒素($N_2O$)を経て、最終的に窒素ガス($N_2$)へと段階的に進行する。1
これらの各反応ステップには、それぞれ特異的な酵素が関与しており、硝酸還元酵素、亜硝酸還元酵素、一酸化窒素還元酵素、亜酸化窒素還元酵素などが遺伝子レベルで厳密に発現制御されている。1
脱窒微生物の多くは通性嫌気性細菌であり、普段は酸素が存在する環境下で好気呼吸を行って増殖しているが、酸素が欠乏した嫌気的な環境に置かれると、酸素の代わりに硝酸塩や亜硝酸塩を電子受容体として利用する無酸素呼吸(脱窒)へと代謝を切り替える性質を持っている。3
このような生化学的特性を持つため、脱窒微生物は水田の土壌、湖沼や海洋の底泥、地下水など、酸素が供給されにくく有機物が存在する環境に広く分布している。2
分類学的には、脱窒微生物は特定の単一の系統に属するものではなく、プロテオバクテリア門を中心として、グラム陽性菌や古細菌に至るまで非常に多様な生物群に散在している。1
例えば、シュードモナス属やアルカリゲネス属、パラコッカス属などの細菌が代表的な脱窒微生物として知られており、それぞれの菌種が異なる環境適応能力や酵素系を有している。1
近年の分子生態学的な研究により、環境中の脱窒微生物が持つ機能遺伝子を定量・解析する手法が発展し、地球温暖化ガスの一つである亜酸化窒素の排出動態と脱窒微生物との関係についての研究が盛んに行われている。2
応用科学の分野においては、脱窒微生物の持つ窒素除去能力は下水処理場や排水処理施設における高度処理プロセス(生物学的脱窒法)へ直接的に利用されている。3
生活排水や工場排水に含まれる窒素化合物を効率的に除去するために、曝気槽と嫌気槽を組み合わせた水処理システムが構築され、都市部の環境保全や水質の浄化に不可欠な技術となっている。3
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200906019416558223 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201302061219080786 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102028639556277 ↩1 ↩2 ↩3