HEALTH WORDS / 用語解説
頚動脈体
頚動脈体とは、総頚動脈の分岐部付近に存在し、動脈血の酸素分圧、二酸化炭素分圧、およびpH(水素イオン濃度)を感知する化学受容器である。1
ヒトをはじめとする哺乳類において、頚動脈体は呼吸や循環器系の調節において極めて重要な役割を担う受容器官の一つである。2
その解剖学的な位置は、総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分岐する後内側の局所に位置しており、成人では一般に米粒大の非常に小さな組織として確認される。3
組織学的には、頚動脈体は主としてI型細胞(グロムス細胞)とII型細胞(支持細胞)から構成されており、豊富な毛細血管網を取り囲むように構造が形成されている。4
I型細胞は神経内分泌細胞としての性質を有しており、血液中の酸素濃度の低下(低酸素血症)、二酸化炭素濃度の上昇、あるいは水素イオン濃度の上昇といった体液の化学的変化を直接的に感受する機能を持つ。4
体内の血中酸素分圧が低下すると、I型細胞内部での膜電位の変化やカルシウムイオンの細胞内流入が生じ、結果としてドパミン、アセチルコリン、ATPなどの神経伝達物質が細胞外へと分泌される。4
これらの放出された神経伝達物質は、隣接する迷走神経や舌咽神経(特に舌咽神経の枝であるHering神経)の求心性線維の終末を刺激する。4
舌咽神経を介して伝達された電気信号は、延髄に存在する呼吸中枢へと送られ、換気量や呼吸数を急速に増加させることで生体内の酸素供給を維持・回復しようとする反射機構が作動する。2
この頚動脈体を介した化学反射は、高地などの低酸素環境への適応だけでなく、睡眠時無呼吸症候群や慢性閉塞性肺疾患などの病態においても、呼吸運動や交感神経系の活動制御を通じて深く関与していることが知られている。2
また、頚動脈体に発生する腫瘍として頚動脈体腫瘍(パラガングリオーマ)があり、これは神経堤由来の組織から発生する比較的稀な良性腫瘍であるが、周囲の血管や神経を圧迫することから詳細な画像診断と臨床的な管理が求められる。3
参考文献・出典
- 国立国会図書館インターネット資料収集事業: https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12470701/www.mhlw.go.jp/content/10904750/000958611.pdf ↩
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/60/1/60_43/_pdf ↩1 ↩2 ↩3
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/58/5/58_5_355/_pdf ↩1 ↩2
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/122/4/122_4_281/_pdf ↩1 ↩2 ↩3 ↩4