HEALTH WORDS / 用語解説
分子標的
Molecular target
分子標的とは、疾患の発生や進展に関与する特定の分子、細胞内のタンパク質、受容体、遺伝子などを指す言葉である。1
分子標的薬の開発において、これらの標的は薬物が特異的に作用してその機能を阻害あるいは調節するための基盤となるものである。2
従来型の低分子化合物を用いた薬物治療では、細胞分裂が盛んな正常組織までもが非特異的に攻撃される傾向があったが、分子標的の概念に基づいた治療では、疾患特異的な分子メカニズムやシグナル伝達経路の異常をピンポイントで狙うことが可能となった。3
例えばがん領域においては、がん細胞の増殖や生存、血管新生、転移などに深く関与する特定の酵素や受容体(キナーゼなど)が主要な分子標的として設定される。4
近年のゲノム医療の発展に伴い、次世代シーケンサーなどを用いた遺伝子検査により、個々の患者の腫瘍が有する遺伝子変異や遺伝子発現の異常を網羅的に解析することが行われている。5
これにより、画一的な治療法ではなく、患者個々の遺伝子プロファイルに基づいた最適な分子標的を特定し、それに合致した分子標的薬を選択するプレシジョン・メディシン(精密医療)の臨床応用が急速に進展している。6
さらに、分子標的は悪性腫瘍だけでなく、免疫系の異常が関与する自己免疫疾患や、アレルギー疾患、感染症など幅広い医学・生物学分野において研究されている。7
例えば、リウマチ性関節炎などの炎症性疾患では、特定のサイトカインやその受容体を分子標的とすることで、過剰な免疫応答を特異的に抑制するバイオ医薬品などが広く臨床現場で応用されている。8
このように、分子標的を明らかにすることは、創薬科学において極めて重要なプロセスであり、基礎研究による分子生物学的知見の蓄積が、革新的な医薬品の開発と臨床医学の進歩を支える根幹となっている。9
参考文献・出典
- NCI Dictionary of Cancer Terms: https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/molecular-target ↩
- 厚生労働省:新規作用機序医薬品の審査の方向性について: https://www.pmda.go.jp/files/000156942.pdf ↩
- 国立がん研究センター 希少がんセンター: https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/precision_medicine/index.html ↩
- PMDA 医薬品評価に関わる用語解説: https://www.pmda.go.jp/safety/surveillance-analysis/0055.html ↩
- 国立がん研究センター がんゲノム医療: https://www.ncc.go.jp/jp/cis/bow/cancer_genome/index.html ↩
- PMDA 新薬承認情報: https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/pbr/0002.html ↩
- 厚生労働省 免疫介在性炎症性疾患に関する研究: https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/25732 ↩
- PMDA 生物由来製品等の安全対策: https://www.pmda.go.jp/rs-st-index.html ↩
- 日本医学会 分科会動向調査: https://jams.med.or.jp/symposium/index.html ↩