HEALTH WORDS / 用語解説
感染経路別予防策
Transmission-based Precautions
感染経路別予防策とは、標準予防策(スタンダード・プリコーション)に加えて、特定の感染症の患者を対象として、その病原体の伝播経路を断つために講じられる追加的な感染制御策である。1 医療機関内における院内感染を防止し、患者や医療従事者、面会者を感染症から守るための極めて重要な医療安全上の戦略として位置づけられている。2
感染経路別予防策は、大きく分けて接触予防策、飛沫予防策、空気予防策の3つのカテゴリーに分類され、それぞれの原因微生物の感染経路の特性に基づいて選択および実施される。1 臨床現場においては、患者の来院時や入院時などに症候や診断名から感染経路を推測し、確定診断がなされる前であっても疑いの段階から速やかに適用することが推奨されている。2
接触予防策は、患者または患者の環境に直接接触すること、あるいは間接接触を介して伝播する病原体の感染拡大を防ぐために講じられる予防策である。1 対象となる疾患や病原体には、多剤耐性菌、腸管出血性大腸菌などの消化器系の感染症、ノロウイルス、疥癬などが含まれる。2 具体的な介入方法としては、原則として個室への隔離またはコホート隔離を行い、医療従事者は患者や周囲の環境表面に触れる際に手袋やガウンを着用する必要がある。1 また、医療機器や器具の専用化、あるいは使用後の適切な消毒と滅菌を徹底することが求められる。2
飛沫予防策は、感染者が咳、くしゃみ、会話などを行う際に放出される飛沫(通常5マイクロメートルを超える大きさの粒子)によって運ばれる病原体の伝播を阻止するための対策である。1 インフルエンザウイルス、百日咳菌、髄膜炎菌、マイコプラズマなどの呼吸器感染症を引き起こす微生物が主な対象となる。2 飛沫は空気中を長距離浮遊せず、通常は発生源から1メートルから2メートル以内の範囲に落下するため、患者との距離を十分に確保することが重要である。1 予防措置としては、個室管理または同室者との間に一定の空間を確保し、医療従事者や面会者は患者に接近する際にサージカルマスクを着用しなければならない。2 さらに、患者自身にも咳エチケットとしてマスクの着用を指導することが有効である。1
空気予防策は、核酸や飛沫核(通常5マイクロメートル未満の微小な粒子)に付着して空気中を長時間浮遊し、遠距離を移動できる病原体の吸入による感染を防ぐための高度な対策である。1 代表的な疾患として、結核、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)などが挙げられる。2 これらの病原体は換気の不良な空間において空気の流れに乗って広範囲に伝播するため、物理的な隔離対策が極めて厳格に実施される。1 具体的には、空気が室外へ漏出するのを防ぐために気圧を低く保つ陰圧管理が施された専用の個室(陰圧隔離室)の使用が必須となる。2 また、医療従事者は通常のサージカルマスクではなく、微小粒子を確実に捕集できる性能を持ったN95マスクなどの呼吸用保護具を装着して対応にあたる必要がある。((国立感染症研究所: https://www.niid.go.jp/niid/images/labo-manual/