HEALTH WORDS / 用語解説
消失
Loss / Disappearance / Extinction
消失とは、医学、心理学、脳神経科学、薬理学などの多様な学術領域において、特定の生体組織、機能、記憶、症状、あるいは条件反射などが失われる現象や過程を指す包括的な用語である。1
心理学および行動分析学の分野における消失(あるいは消去)とは、かつて存在した行動、反応、あるいは条件付けされた反応が、その反応を維持していた強化因子が提示されなくなることによって次第に弱まり、最終的に発現しなくなる現象を指す。1
パブロフ型条件付け(古典的条件付け)の実験系においては、条件刺激(CS)のあとに無条件刺激(US)を伴わない試行を繰り返し提示すると、条件反応(CR)の頻度や強度が徐々に低下し、最終的に消失する過程が観察される。2
また、オペラント条件付け(道具的条件付け)においては、過去に報酬(正の強化)をもたらしていた行動に対して報酬が与えられなくなると、その行動の自発頻度が一時的に増加した後に低下し、やがて消失する現象として知られている。2
臨床医学や脳神経科学の文脈では、消失は疾病、外傷、老化などに起因する組織や機能の喪失を表すことが多い。例えば、脳卒中や脳血管障害といった脳の器質的疾患によって、言語野や運動野などの特定の脳領域が障害を受けると、言語機能や運動機能の一部または全体が消失することがある。3
さらに、記憶の分野においては、脳の構造的損傷、神経変性疾患(アルツハイマー病など)、あるいは心理的な防衛機制としての解離などを背景として、過去の記憶の一部や広範なエピソード記憶が消失する健忘や記憶喪失といった病態が認められる。1
薬理学および毒性学の領域においては、体内に投与された薬物、毒物、あるいは代謝産物が、代謝や排泄といった生体のクリアランス機構によって血液中や組織内から消失する過程を指す。薬物動態学(PK)においては、血中濃度半減期や消失速度定数などの指標を用いて、薬剤が体外へ消失する速度が評価される。4
このように、消失という用語は、行動の消去プロセスから、神経学的機能や記憶の喪失、さらには体外への物質の排泄に至るまで、生命科学や行動科学の幅広い領域における重要な現象を説明するために用いられている。1
参考文献・出典
- 厚生労働省 e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-067.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 国立情報学研究所 CiNii Research: https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204899595648 ↩1 ↩2
- 国立国会図書館サーチ: https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002931498-0 ↩
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 PMDA: https://www.pmda.go.jp/files/000259404.pdf ↩