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HEALTH WORDS / 用語解説

発がん物質

Carcinogen

発がん物質とは、生体に曝露されることで悪性腫瘍(がん)の発生を誘発、あるいはその発生率を増加させる性質を持つ化学物質、物理的因子、または生物学的因子の総称である。国際機関や公的機関による科学的評価に基づき、遺伝子への変異を引き起こすものや、細胞の増殖を促進するものなど、多様な機序を介して発がん作用を示す物質が指定されている。1

世界保健機関(WHO)の一部局である国際がん研究機関(IARC: International Agency for Research on Cancer)では、世界各国から収集された疫学調査データや動物実験の結果などの科学的証拠を総合的に評価し、発がん物質の分類を行っている。IARCの分類においては、ヒトに対する発がん性が十分にあるとされるグループ1から、ヒトに対する発がん性についての証拠が不十分または分類できないグループ3などに細分化されており、それぞれの物質が持つ危険性の程度が科学的根拠に基づいて評価されている。2

化学的な発がん物質の多くは、DNAと直接反応して遺伝子変異を引き起こす変異原性物質としての性質を備えている。これらは体内の代謝酵素によって活性化されることで求電子的な性質を持つ中間体を生成し、それがDNAの塩基と共有結合を形成してDNA付加体を構築する。このDNAの構造異常が細胞分裂時の複製エラーを誘発し、癌遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活化をもたらすことで、腫瘍化の初期段階を引き起こすとされている。3

一方で、直接DNAを傷つけないものの、細胞毒性に基づく持続的な組織障害とそれに伴う細胞の過剰な増殖を促すことでがんの発生リスクを高める非遺伝子毒性発がん物質も存在する。これらの中には、ホルモン受容体を介して内分泌系のバランスを撹乱するものや、免疫系に作用して慢性的な炎症を誘導するもの、さらにはエピジェネティクスな変化を介して遺伝子発現の制御異常を引き起こすものなどが含まれており、閾値の存在が議論される要因となっている。2

物理的因子としての発がん物質には、電離放射線(X線やガンマ線など)や紫外線が含まれる。これらは生体の細胞を通過する際に直接DNAの鎖を切断したり、活性酸素種を産生して酸化ストレスを惹起したりすることにより、遺伝子構造に損傷を与える。また、アスベスト(石綿)などのように、物理的な形状や生体持久性に起因して肺や胸膜に慢性の炎症を引き起こし、結果として中皮腫や肺がんを誘発する繊維状の物質も重要な物理化学的発がん因子として知られている。1

生物学的因子としては、特定のウイルスや細菌、寄生虫などの病原体が挙げられ、これらも広義の発がん要因として扱われる。例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス、あるいはピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)などは、宿主の細胞に感染して持続感染を成立させ、宿主ゲノムへの統合や炎症性サイトカインの産生を介して細胞死と再生のサイクルを常態化させ、悪性化を促進する。3

日常生活や労働環境における発がん物質への曝露を低減・管理するため、国内外の法制度やガイドラインによって厳しい規制や許容濃度の設定が行われている。労働安全衛生法に基づく特定化学物質障害予防規則や、食品衛生法における残留農薬および添加物の基準などは、こうした発がん物質から労働者や国民の健康を守るための具体的な公衆衛生上の対策として機能している。2

参考文献・出典

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html ↩1 ↩2
  2. 厚生労働省 職場のあんぜんサイト: https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gms/IARC.html ↩1 ↩2 ↩3
  3. 国立医薬品食品衛生研究所 安全性情報: https://www.nihs.go.jp/ICPS/Lice/iarc/index.html ↩1 ↩2