HEALTH WORDS / 用語解説
PI3K-AKT経路
PI3K-AKT pathway
PI3K-AKT経路とは、細胞の生存、増殖、代謝、運動能などの多様な細胞応答を制御する極めて重要なシグナル伝達経路である。12
この経路の活性化は、一般に細胞膜上の受容体、特に受容体型チロシンキナーゼ(RTK)へのリガンド(インスリンや増殖因子など)の結合から始まる。13
リガンドの結合によって受容体が活性化されると、細胞質側でホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)がリクルートされる。1
活性化されたPI3Kは、細胞膜の脂質成分であるホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)をリン酸化し、ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)へと変換する。32
産生されたPIP3は、プレクストリンホモロジー領域(PH領域)を持つタンパク質であるプロテインキナーゼB(別名AKT)を細胞膜へとリクルートする役割を果たす。3
細胞膜上に集積したAKTは、ホスホイノシトール依存性キナーゼ-1(PDK1)やmTORC2などの上流キナーゼによってリン酸化され、完全に活性化される。3
活性化されたAKTは細胞質や核へ移行し、アポトーシスに関与するBADやCaspase-9などの分子をリン酸化してその機能を抑制することで、細胞死を防ぎ生存を維持する。13
また、AKTはmTOR経路を介してタンパク質合成を促進し、細胞の増殖や成長を正に制御する中心的な役割を担う。13
さらに、糖代謝においては、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)の活性を阻害することでグリコーゲン合成を促進するほか、グルコーストランスポーター(GLUT4)の細胞膜への移行を促し血糖値の低下に寄与するなど、代謝調節にも深く関与している。13
このPI3K-AKT経路の機能は、ホスファターゼであるPTENによって負の制御を受けている。3
PTENはPIP3を脱リン酸化してPIP2に戻すことで、過剰なAKTの活性化を抑える腫瘍抑制因子として機能する。3
そのため、PI3K-AKT経路の異常活性化やPTENの変異・欠損は、がん細胞の無秩序な増殖や生存、薬剤耐性の獲得に密接に関連していることが知られている。32
参考文献・出典
- KEGG PATHWAY Database: https://www.kegg.jp/pathway/map04151 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
- NCI Dictionary of Cancer Terms: https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/pi3k-akt-pathway ↩1 ↩2 ↩3
- Nature Reviews Molecular Cell Biology: https://www.nature.com/articles/nrm2930 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10