HEALTH WORDS / 用語解説
ゲノムワイド関連解析
Genome-Wide Association Study
ゲノムワイド関連解析とは、ヒトゲノム全体を網羅する数百万から数千万ヶ所の一塩基多型(SNP)などの遺伝子多型を対象として、特定の疾患を持つ集団と健康な集団の間でその頻度に統計学的な差があるかを網羅的に調査する手法である。1 ゲノムワイド関連解析は、多因子疾患である生活習慣病や精神疾患などの発症リスクに関わる遺伝要因を同定するために広く用いられている。2
この解析手法の背景には、ヒトゲノムの塩基配列の個人間における違いの大部分が一塩基多型であるという事実がある。3 人間が持つ多様な表現型や疾患に対する感受性の違いは、これらの微小な遺伝子変異の組み合わせに起因すると考えられており、従来の連鎖解析では特定が難しかった微弱な効果を持つ遺伝子領域を見つけ出すために考案された。3
ゲノムワイド関連解析の具体的な実施手順としては、まず多数の被験者から血液や唾液などの生体試料を採取し、そこからDNAを抽出する。4 次に、DNAチップやマイクロアレイ、あるいは次世代シーケンサなどの網羅的解析技術を用いて、個体ごとの一塩基多型の型を決定する。4 得られた膨大な遺伝子型データをもとに、ケースコントロール研究の枠組みを用いて統計解析を行い、疾患と有意に関連するゲノム上の領域を探索する。1
解析の際には、多重検定による偽陽性を防ぐために極めて厳格な有意水準が設定される。2 通常、$p < 5 \times 10-8$という非常に低い有意確率をしきい値として用いることで、偶然による誤った検出を厳しく統制している。2 また、集団構造の偏りや交絡因子による偽りの相関を排除するため、主成分分析などの手法を用いて人口集団の遺伝的な均一性を確認・調整することが不可欠である。4
これまでにゲノムワイド関連解析によって、糖尿病、高血圧、悪性腫瘍、自己免疫疾患など、数多くの疾患に関連する数千もの遺伝子座が明らかにされてきた。1 これらの成果は、疾患の病態解明だけでなく、個人の遺伝的リスクを予測するポリジェニックリスクスコアの算出や、オーダーメイド医療(ゲノム医療)の実現に向けた基盤情報として活用されている。2
一方で、ゲノムワイド関連解析にはいくつかの限界や課題も存在する。4 同定された関連シグナルの多くはタンパク質をコードしない非コード領域に存在することが多く、その生物学的機能やどの遺伝子を標的にしているのかを特定することが困難な場合が少なくない。3 さらに、これまでに実施されてきた研究の大部分が欧米系集団に偏っていたため、非欧米系集団における遺伝的背景の違いを考慮した解析や、多様性に配慮したゲノムコホート研究の推進が近年の重要な課題となっている。4
参考文献・出典
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構: https://www.amed.go.jp/news/release_20200827.html ↩1 ↩2 ↩3
- 国立大学法人東京大学: https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2023/8499/ ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 国立研究開発法人科学技術振興機構: https://www.jst.go.jp/pr/announce/20090728/index.html ↩1 ↩2 ↩3
- 国立研究開発法人理化学研究所: https://www.riken.jp/press/2022/20220624_1/index.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5