HEALTH WORDS / 用語解説
リン酸化チロシン
Phosphotyrosine
リン酸化チロシンとは、タンパク質を構成するアミノ酸の一つであるチロシンの水酸基に、リン酸基が共有結合して生じた修飾体のことである。1
生物体内においてタンパク質のリン酸化は細胞内の様々なシグナル伝達経路を制御する中心的な翻訳後修飾であり、中でもチロシンのリン酸化は動物細胞の増殖、分化、代謝などの生命活動を調節する上で極めて重要な役割を担っている。1
タンパク質のチロシン残基に対するリン酸基の付加反応は、プロテインキナーゼの一種であるチロシンキナーゼによって触媒される。2 チロシンキナーゼには、細胞膜上に存在してホルモンや増殖因子などのリガンドの結合により活性化される受容体型チロシンキナーゼと、細胞質内に存在する非受容体型チロシンキナーゼの2つの主要なグループが存在する。3
生成されたリン酸化チロシンは、SH2ドメインやPTBドメインといった特異的なドメインを持つ下流のシグナル伝達分子群に対する結合部位(ドッキングサイト)として機能する。4 これにより、多様なタンパク質間相互作用が引き起こされ、細胞膜から細胞核へとシグナルが効率よく伝達される仕組みになっている。4
一方で、チロシン残基のリン酸化状態は可逆的であり、プロテインホスファターゼの一種であるチロシンホスファターゼによってリン酸基が脱離されることで、シグナルの終結や状態のリセットが行われる。5 このキナーゼとホスファターゼのバランス破綻は、癌をはじめとする様々な疾患の発症や進展に深く関与していることが知られている。4
歴史的に見ても、チロシンのリン酸化の発見は分子生物学および生化学において画期的な出来事であった。4 1970年代末から1980年初頭にかけて、トニー・ハンターらによるラウス肉腫ウイルスのタンパク質キナーゼ(v-Src)に関する研究などからリン酸化チロシンが同定され、腫瘍ウイルスや癌遺伝子がどのように細胞内の情報伝達を乗っ取るかを解明する端緒となった。4
現代のプロテオミクス解析においては、質量分析法などの技術の発展に伴い、リン酸化チロシンを含むペプチドを網羅的に検出・定量することが可能となっている。6 これにより、細胞全体におけるチロシンキナーゼネットワークの動態変化を詳細に解析することが可能になり、創薬標的の探索や分子標的薬の開発において重要な情報を提供している。6
参考文献・出典
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B5%E5%8C%96%E3%83%81%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%B3 ↩1 ↩2
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%81%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%B3 ↩
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC ↩
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%81%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%B3 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BC ↩
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/49/3/49_232/_pdf/-char/ja ↩1 ↩2