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HEALTH WORDS / 用語解説

牽引力

traction

牽引力とは、物理学や生物学、医学の分野において、物体や組織を引っ張ることで生じる力、またはそれを発生させる能力全般を指す用語である。1

力学的な観点において、牽引力は接触力の一種であり、ロープやケーブル、あるいは筋肉などの組織を介して物体に伝達される張力と密接に関連している。生体力学の領域では、骨格系に対する筋肉の収縮や腱を介した力の伝達、さらには医療現場における牽引療法などの物理的な治療において極めて重要な概念として扱われている。1

細胞生物学および分子生物学においては、細胞が基質に対して生み出す力や、細胞運動の際に仮足などを介して細胞外基質を引っ張る機械的力を指して牽引力という言葉が用いられる。細胞が移動する際には、アクチンフィラメントとミオシン分子の相互作用によって収縮力が生成され、これが細胞接着分子を介して基質へと伝達されることで牽引力が発揮される。この細胞牽引力は、細胞の移動や形態形成、創傷治癒、さらにはがん細胞の浸潤や転移といった様々な生命現象の基盤をなす物理的な力として、バイオメカニクスや医用工学の領域で盛んに研究されている。1 また、細胞レベルだけでなく、組織培養や三次元培養モデルにおいて、細胞が集団で周囲のゲル構造などを変形させる際に生じる力についても牽引力という表現が用いられる。2

医学および整形外科の領域における牽引力は、骨折の整復や変形性関節症、椎間板ヘルニアなどの保存療法として行われる牽引治療において不可欠な要素である。四肢や脊椎に対して持続的または間欠的に適切な牽引力を加えることで、関節の拘縮を改善したり、筋 spasms(けいれん)を和らげたり、骨折端の転位を矯正したりすることが可能となる。この際、過剰な牽引力は神経や血管の損傷、あるいは軟部組織の虚血を引き起こすリスクがあるため、患者の病態や解剖学的構造に応じて、加えられる力の大きさや方向を厳密に制御する必要がある。リハビリテーション医学や整形外科手術の前処置においても、安全かつ効果的な牽引力の設定は臨床上の重要な技術となっている。2

参考文献・出典

  1. 生物物理学会 メールマガジン: https://www.biophys.jp/highschool/frontiers-09.html ↩1 ↩2 ↩3
  2. J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/13/2/13_69/_pdf ↩1 ↩2