HEALTH WORDS / 用語解説
BCKADHキナーゼ
BCKADHキナーゼとは、分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体(BCKDH複合体)の活性を負に調節する酵素である。1 この酵素は、BCKDH複合体のE1成分であるE1αサブユニットをリン酸化することによって、その触媒機能を不活化する役割を持つ。2
ヒトなどの哺乳類において、分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンの代謝経路は生体のタンパク質合成やエネルギー代謝において極めて重要な位置を占めている。1 分岐鎖アミノ酸の代謝の第二段階では、共通して分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体が脱炭酸反応を触媒するが、この複合体全体の代謝回転速度を精密に制御しているのがBCKADHキナーゼである。2
BCKADHキナーゼによるリン酸化はATPを基質として行われ、これによりE1αサブユニットの特定のセリン残基が修飾される。1 反対に、リン酸化されて不活化した複合体は、タンパク質脱リン酸化酵素であるBCKADHホスファターゼによって脱リン酸化されることで、再び活性型の状態へと戻る。2 このように、キナーゼとホスファターゼの拮抗的な作用バランスが、生体内の分岐鎖アミノ酸濃度を一定に保つための主要な分子機構となっている。1
分子生物学的および遺伝学的な解析において、BCKADHキナーゼをコードする遺伝子変異や発現異常は、分岐鎖アミノ酸の血中濃度異常や代謝疾患に関連することが示されている。2 特にメープルシロップ尿症などの先天性代謝異常症の病態理解や治療法の模索において、BCKADHキナーゼを中心としたシグナル伝達および酵素活性の調節機構は重要な研究対象となっている。1