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HEALTH WORDS / 用語解説

カスパーゼカスケード

Caspase cascade

カスパーゼカスケードとは、アポトーシスなどの細胞死や炎症応答の実行において、カスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が上流から下流へと順次活性化されていく一連の生化学的なシグナル伝達経路のことである。1

このカスケードは、生体の恒常性維持や発生・分化の過程において不要となった細胞や異常な細胞を計画的に排除するために極めて重要な役割を担っている。2

カスパーゼは、システインプロテアーゼの一つであり、標的タンパク質のアスパラギン酸残基のC末端側を切断する特異性を持っている。3

通常、これらは活性を持たない不活性な前駆体であるプロカスパーゼとして細胞質内に存在している。4

アポトーシスの誘導時には、上流に位置するシグナルによってプロカスパーゼが凝集し、自己切断または相互切断を受けることで構造変化を起こし、活性型カスパーゼへと変換される。5

活性化した上流のカスパーゼは、さらに下流に位置する別のプロカスパーゼを切断して活性化するというドミノ倒し式のリレー反応を引き起こし、これが「カスケード」と呼ばれる所以である。6

アポトーシスを引き起こすカスパーゼカスケードには、主に細胞外からのシグナルを感知する外因性経路(デス受容体経路)と、細胞内のストレスやDNA損傷を感知する内因性経路(ミトコンドリア経路)の2つの主要な経路が存在している。7

外因性経路では、細胞膜上のFas受容体などのデス受容体にリガンドが結合すると、細胞内ドメインにアダプタータンパク質がリクルートされ、プロカスパーゼ-8が集積して活性化される。8

活性化したカスパーゼ-8は、直接下流のエフェクターカスパーゼであるカスパーゼ-3やカスパーゼ-7を切断・活性化するほか、内因性経路の因子であるBidを切断してtBidへと変換することで、両経路を連動させる場合もある。9

一方、内因性経路では、DNA損傷や酸化ストレスなどの刺激によってミトコンドリアの外膜透過性が亢進し、シトクロムcなどのアポトーシス誘導因子が細胞質へ放出される。10

細胞質に出たシトクロムcは、Apaf-1やプロカスパーゼ-9と結合してアポトソームと呼ばれる多量体複合体を形成し、ここでプロカスパーゼ-9が近接して自己活性化される。11

こうして活性化したカスパーゼ-9は、さらにカスパーゼ-3などの下流のエフェクターカスパーゼを次々と活性化していく。12

エフェクターカスパーゼ(カスパーゼ-3、カスパーゼ-6、カスパーゼ-7など)は、細胞内の様々な構想タンパク質、DNA修復酵素、細胞骨格タンパク質などを標的として広範な切断を行う。13

これにより、細胞の形態変化、染色体DNAの断片化、アポトーシス小体の形成といった特徴的な細胞死の実行が不可逆的に進行する。14

カスパーゼカスケードの異常な亢進は、神経変性疾患や虚血性心疾患などの過剰な細胞死を伴う疾患の原因となる。15

逆に、このカスケードの破綻や抑制は、がん細胞におけるアポトーシス回避や腫瘍の生存、薬剤耐性の獲得に深く関与しているため、カスパーゼカスケードを標的とした新規抗がん剤の開発研究が精力的に進められている。16

参考文献・出典

  1. 命の科学情報館: https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n_h21_04.pdf ↩
  2. 厚生労働省 難治性疾患克服研究事業 蛋白構造研究班: https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=200803023A ↩
  3. J-GLOBAL: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902045585093556 ↩
  4. 金沢大学: https://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/2297/42436/1/KJ00009657070.pdf ↩
  5. 科学技術振興機構: https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/report/h17fin/h17fin_miyajima.pdf ↩
  6. 大阪大学: https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/52787/03158_k05.pdf ↩
  7. 理化学研究所: https://www.riken.jp/press/2007/20070529_2/ ↩
  8. 名古屋大学: https://www.med.nagoya-u.ac.jp/metab/pdf/publication/2012_okajima.pdf ↩
  9. 東京大学: https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2018/6149/ ↩
  10. 京都大学: https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/193799/1/bk004_02.pdf ↩
  11. 九州大学: https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_link_md/bibid/1915570/ ↩
  12. 北海道大学: https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/33423/1/Okuno_Yoshitaka.pdf ↩
  13. 岡山大学: https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/4/46483/20160528135010626388/30_1_021.pdf ↩
  14. 新潟大学: https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/record/8296/files/KJ00005423854.pdf ↩
  15. 国立精神・神経医療研究センター: https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r3/molecular_neuropathology.html ↩
  16. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/files/000153835.pdf ↩