HEALTH WORDS / 用語解説
トランスサイレッチン
Transthyretin
トランスサイレッチンとは、主として肝臓で産生される血清および脳脊髄液中の輸送タンパク質である。1 かつてはサイロキシン結合プレアルブミンとも呼ばれていたが、現在では甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)やレチノール(ビタミンA)結合タンパク質との複合体を輸送する機能にちなみ、トランスサイレッチンと命名されている。2
トランスサイレッチンは、4つの同一のサブユニットから構成される四次構造を持つホモ四聚体(四量体)としての性質を有している。3 生理的な条件下では、この四量体構造を維持しているが、何らかの原因によって四量体が解離して単量体(モノマー)となり、それが異常な高次構造へと変化(コンホメーション変化)することで、線維状の不溶性タンパク質集合体であるアミロイドを形成する性質を持つ。4
トランスサイレチンの異常アミロイド形成に起因する疾患群は、トランスサイレッチン型アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)と総称される。5 ATTRアミロイドーシスには、遺伝子変異を伴わない野生型トランスサイレッチンが心臓などに蓄積する野生型トランスサイレッチン型心アミロイドーシス(旧称:老人性全身性アミロイドーシス)と、トランスサイレッチン遺伝子の変異に起因する家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP、現在では変異型トランスサイレッチン型アミロイドーシスとも呼ばれる)が含まれる。6
変異型トランスサイレッチン型アミロイドーシスにおいては、これまでに100種類以上の点突然変異が報告されており、我が国においてはトランスサイレッチンのアミノ酸配列の30番目のバリンがメチオニンに置換される変異(Val30Met)などが高頻度に認められる地域が存在する。4 こうした変異を持つトランスサイレッチンは熱力学的不安定性が高く、容易に四量体から単量体へと解離しやすいため、末梢神経や心筋などの組織にアミロイドが沈着し、多発神経障害や心不全をはじめとする重篤な臨床症状を引き起こす原因となる。2
近年の医学および薬理学の進歩に伴い、トランスサイレッチンに起因する疾患に対する治療薬の開発が進められている。6 代表的な分子標的薬として、トランスサイレッチンの四量体構造に結合してその解離を安定化させ、アミロイドの線維化を抑制する四量体安定化薬や、肝臓でのトランスサイレッチンの生合成そのものを抑制する核酸医薬品(siRNA医薬品やアンチセンス核酸)などが臨床現場で用いられている。4
参考文献・出典
- 医療情報データベース: https://www.kegg.jp/entry/hsa:676 ↩
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/11-内分泌疾患/内分泌系腫瘍/アミロイドーシス ↩1 ↩2
- KEGG PATHWAY: https://www.kegg.jp/pathway/hsa05012 ↩
- 難病情報センター: https://www.nanbyo.or.jp/entry/4612 ↩1 ↩2 ↩3
- 厚生労働省 難治性疾患政策研究班: https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000632360.pdf ↩
- 国立循環器病研究センター: https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/consultation/attramyloidosis/ ↩1 ↩2