HEALTH WORDS / 用語解説
酸分泌
Acid secretion
酸分泌とは、主に胃の壁細胞から胃酸(塩酸)が消化管の管腔内へと放出される生理的プロセスを指す。1
ヒトをはじめとする哺乳類の胃において、酸分泌は食物の消化を助けるとともに、微生物に対する生体防御として極めて重要な役割を果たしている。2
胃酸の主成分は塩酸であり、胃の粘膜に存在する壁細胞( parietal cell )と呼ばれる特殊な細胞から分泌される。1
この壁細胞の細胞膜上には、水素イオンとカリウムイオンを交換する膜タンパク質であるH+/K+-ATPase(プロトンポンプ)が存在しており、ATPのエネルギーを利用して水素イオンを胃の管腔内へ能動輸送することによって酸分泌が行われる。1
酸分泌の調節機構は非常に複雑であり、神経系、ホルモン、液性因子など複数の経路によって厳密に制御されている。2
具体的には、迷走神経の興奮を介した神経性調節のほか、胃壁のG細胞から分泌されるガストリン、肥満細胞やクロム親和性細胞(ECL細胞)から分泌されるヒスタミンといった液性因子が、壁細胞の受容体に結合することで酸分泌が強力に促進される。2
一方で、ソマトスタチンやプロスタグランジンなどは酸分泌を抑制する方向に働く生理活性物質として知られている。2
臨床医学および薬理学の領域において、この酸分泌の過剰や異常は、消化性潰瘍、逆流性食道炎、ゾリンジャー・エリソン症候群などの様々な消化器疾患を引き起こす主要な原因となる。3
そのため、これらの疾患の治療や予防を目的として、酸分泌を直接的あるいは間接的に抑制する薬剤が広く臨床で用いられている。3
代表的な治療薬としては、壁細胞上のヒスタミンH2受容体を遮断して酸分泌を抑えるH2受容体拮抗薬や、壁細胞の最終的な酸分泌機構であるH+/K+-ATPaseの働きを不可逆的あるいは可逆的に阻害するプロトンポンプ阻害薬(PPI)およびP-CAB(カリウム競合型酸分泌抑制薬)が存在する。3
参考文献・出典
- 生化学辞典 第4版: https://webview.isho.jp/vocab/detail/I0000850 ↩1 ↩2 ↩3
- 栄養・生化学辞典: https://webview.isho.jp/vocab/detail/I0001090 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 南山堂 医学大辞典: https://webview.isho.jp/vocab/detail/I0001550 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4