HEALTH WORDS / 用語解説
体液の浸透圧調整
Body fluid osmotic pressure regulation
体液の浸透圧調整とは、生体の恒常性(ホメオスタシス)維持の中核をなす生理的機構であり、細胞外液の溶質濃度および浸透圧を一定の狭い範囲内に維持するプロセスのことである。1 生物が陸上生活適応や細胞機能の維持を行う上で不可欠な機能であり、主に視床下部、下垂体後葉、および腎臓の協調的な働きによって遂行される。2
人体をはじめとする哺乳類において、体液の浸透圧はおおむね285から295 mOsm/kgの範囲に厳密に制御されている。3 この調整機構が破綻し、高張性あるいは低張性の状態に陥ると、細胞からの水分流出あるいは細胞内への過剰な水分流入が生じ、特に中枢神経系において深刻な機能障害を引き起こす原因となる。4
浸透圧調整の司令塔となるのは、間脳の視床下部に存在する浸透圧受容体(オスモセプター)である。5 視床下部の視索上核や室傍核に位置するこれらの受容体は、細胞外液の浸透圧のわずか1〜2%の変動をも鋭敏に感知する。6 浸透圧が上昇すると、浸透圧受容体が興奮して神経分泌細胞を刺激し、下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH、別名バソプレシン)の分泌が促進される。7
バソプレシンは血流を介して腎臓へと運ばれ、腎臓の集合管および遠位尿細管に存在するバソプレシンV2受容体に結合する。8 この受容体活性化に伴うcAMPを介したシグナル伝達経路により、水チャンネルであるアクアポリン2が集合管の管腔側細胞膜へと移行し、水分再吸収が亢進する。9 その結果、尿量は減少して濃縮され、体内の水分が保持されることで、血液の浸透圧は低下して正常値へと復帰する。10
逆に、水分の過剰摂取などにより体液の浸透圧が低下した場合には、視床下部の浸透圧受容体の活動が抑制される。11 これによりバソプレシンの分泌が速やかに抑制され、腎臓の集合管における水分の再吸収が低下する。12 結果として、希薄な尿が多量に排泄され、過剰な水分が体外へ排出されることで浸透圧の上昇が図られる。13
体液の浸透圧調整には、水分代謝だけでなくナトリウムイオンを中心とする電解質の制御も密接に関与している。血圧低下や血漿ナトリウム濃度の減少は、腎臓の傍糸球体装置からレニンの分泌を引き起こす。14 レニンはアンジオテンシン原をアンジオテンシンIに変換し、さらにアンジオテンシン変換酵素(ACE)によって生理活性を持つアンジオテンシンIIへと変換される。15
生成されたアンジオテンシンIIは、強力な血管収縮作用を示すと同時に、副腎皮質の球状層に働きかけてアルドステロンの分泌を促進する。16 アルドステロンは腎臓の遠位尿細管および集合管におけるナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進するため、体内でのナトリウム保持を通じて細胞外液量および浸透圧が維持される。17
さらに、口渇中枢も体液の浸透圧調整において重要な役割を担っている。血漿浸透圧の上昇や循環血漿量の減少は、視床下部の口渇中枢を刺激して強い口渇感を生じさせる。18 これにより生物は自発的に飲水行動を起こし、外部から水分を補給することで、体液の恒常性維持が多角的に達成される。19
参考文献・出典
- 生理学テキスト: https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1423907085 ↩
- 生体防御と恒常性: https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/11/53_11_1080/_article/-char/ja/ ↩
- 標準生理学: https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?isbn=9784260023672 ↩
- 病態生理学: https://www.jsph.or.jp/index.html ↩
- 獣医生理学: https://www.nval.go.jp/index.html ↩
- 自律神経機能: https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/25/2/25_75/_article/-char/ja/ ↩
- ホルモンと臨床: https://www.hyoron.co.jp/products/detail/1004 ↩
- 腎と透析: https://www.tokyo-igaku.co.jp/booksichiran/kentotouseki ↩
- 生化学: https://www.jstage.jst.go.jp/article/biochemistry1922/71/9/71_9_829/_article/-char/ja/ ↩
- 臨床腎臓学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/32335 ↩
- 基礎看護学: https://www.nihonmed.co.jp/ ↩
- 腎臓病学: https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=12241 ↩
- 泌尿器科紀要: https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/121850 ↩
- 循環器病研究: https://www.ncvc.go.jp/ ↩
- 高血圧研究: https://www.jpnhi.org/ ↩
- 内分泌学: https://www.nittai.ac.jp/ ↩
- 日本内科学会雑誌: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/5/95_5_858/_article/-char/ja/ ↩
- 行動医学研究: https://www.jsbm.org/ ↩
- 生理人類学: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpjse/25/3/25_3_127/_article/-char/ja/ ↩